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眠りから覚めた街

気がつくと、静まり返っていた国道には仕事へ向かう車で溢れていた。
眠りから覚めた生き物の血の流れのように、道路には多くの車が動き出している。

街が目を覚ました。

その流れの一台となって僕も進んでいる。
しかし、僕はまだ眠りから目覚めたわけではない。
眠る街を眠らずに進む。目を覚ました街で眠りにつく為に。

谷間を登っていく国道には、逃げ道を失い流れに身を任せるだけの車が遠く見えなくなるまで並んでいる。
薄暗く、日の光のが入らない道路はゆっくりと進む渋滞もろとも薄暗い陰鬱な空気で包んでいた。
谷間を上り切ると、山から迫り出した尾根を貫く薄暗いトンネルを通過する。
太陽は昇っているはずだけれど、谷間の国道を登り切ってもトンネルの先は山の影の中で薄暗い。
けれどその先には、目覚めた街並みが陽を浴びて輝いていた。

あさが来た。

太陽に照らされた街とその街を見下ろすように佇む富士山がこの道で1番見応えのある風景だ。
この風景をみるために僕は眠らずに進んできたのだ。
そして、僕はそれを見届けて眠りにつく。
眠りから覚めた街の鼓動を子守唄に眠りにつく。

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