キャプテン・アメリカ:ニューディールを読んだ。
前置き
キャプテン・アメリカはその名前の通り、アメリカの情勢の影響をかなり受けやすい作品だ。元々が第二次世界大戦の時にナチスに対抗して作られたヒーローという背景もある。そのため、アメリカで大きな事件が起こるとその影響をモロに受けてしまう。前回、感想を書いたシークレット・エンパイアも、ウォーターゲート事件の影響を強く受けていた。
アメリカのみならず、世界中に衝撃を与えた9.11、テロリストによる旅客機の奪取とビルへの自爆テロは、世界中の人々に衝撃を与え、テロリズムに対する認知を大きく変えたと言っても過言ではないだろう。
そんな、9.11を受けて生み出されたのか今作、ニューディールである。今回もまたマーベルグラフィックノベル・コレクションより。収録されているのはキャプテン・アメリカvol.4の#1ー#6だ。
9.11
始まりは非常に陰惨だ。テロによって崩れた瓦礫の中から必死に生存者を探そうとするスティーブの姿から始まる。しかし、見つかるのは死体ばかり。灰色に染まる世界で、自分の無常感を感じずにいられない。コミックの中の世界は現実の影響を受けるけれども、現実には介入できない悲しみが感じられます。フィーリーから協力を求められますが、拒否。フィーりーは割り切ってますが、彼にはそこまでできません。
帰り道、夜に出歩くイスラムの少年に、テロで愛する人を失った男性がナイフを片手に襲いかかりますが、それを阻止します。キャプテン・アメリカの姿に、暴漢も冷静になりますが、彼の心情は思いを憚りながらも諭します。襲われた青年も、奥さんを亡くした男性を慰めます。この一連のシーンのキャプテン・アメリカの姿がとても美しくて、同時にこの一連のシーンに込められた作者の願いが感じられる。憎しみで戦ってはならない、そうすると本当の敵を見誤ってしまう。
スティーブ自体がこの事件を飲み込めないまま、七ヶ月後に再びアメリカの街一つを占拠したテロが起こります。テロリストの要求はキャプテン・アメリカ本人とその死。
センターヴィルの戦い
占拠された街に単身で飛び込むキャプテン・アメリカ。トラップだらけの街を掻い潜り、自分の命を奪おうとするテロリスト達を蹴散らしながら。そんな彼の前に現れたのは、少年兵。四肢が機械化されており、その理由はアメリカの攻撃で巻き添えを受け、失ってしまったため。戦い難い相手です。何とか傷つけずに戦おうとしますが、そのうちの1人が手榴弾を体に巻き付けて自爆攻撃。どうにか自分だけではなく、1人の少年兵も助けることができましたが、やり切れません。
占拠された教会には爆弾が仕掛けられており、テロリストのリーダーがこの街を襲った理由を告げます。爆弾の部品工場があるから。彼らにとっては十分すぎる理由です。制限時間が迫る中、突入するキャップ。時間もなく、人質を助けるためにリーダーの男を殺害します。基本的に人を殺さないことを信条とするキャップからすれば、異例中の異例です。しかし、そこでアメリカ軍の装備であるCATタグをテロリストが使っていることに気づきます。事件解決後、今回の事件の責任は全て自分にある、とスティーブはマスクを取り、全国に向けて自らの正体を明かします。
憎しみという名のモンスター
解決後にすぐにフィーリーの元に向かい、テロリストも使っていた装備について問いただしますが、納得する答えは得られませんでした。帰り道、再びアラブ系のテロリストに襲われるキャップ。独立記念日を狙ったテロを未然に防ぎます。しかし、彼らの首にはやはりCATタグが。ますます、アメリカに対する不信感を強めてしまう。
自由とは何か? テロリストにかけられた言葉を自問自答しながらドレスデンに向かった彼を待っていたのは、爆弾。ついて早々、手洗い歓迎です。そこで現れたテロリストのリーダーを、キャップは『モンスター』と呼びます。不意打ちなどはあるものの、基本的には相手を圧倒するキャップ。モンスターの正体は、自分の父と母が殺された、というもの。アメリカに対する怨恨を投げかけますが、キャップは憎しみゆえに彼の目が曇っていること、関係ない無辜の市民を巻き込んだことを理由に、彼の言葉を否定し、叩きのめします。
ラストシーン、崩れ去った瓦礫の中からモンスターを担ぎ上げながら脱出しているキャップの姿で、シメ。
感想
アメリカというアイコンを背負うがゆえに悩むキャップの姿と、未曾有のテロリズムに対して、どう向かい合っていくべきなのか、そういう『どうすればいいのか?』という問いかけに彼なりの答えを出そうとした意欲作ではないか、と思う。所々に、作者の願いのようなものも感じられて、しんみりとする一作でもあった。
『戦いを生み出すものは何か?』という問いかけに、憎しみである、という答えを出している本作では、メインヴィランと呼ばれる存在が登場しない。モンスターと呼ばれた彼も特殊な力を持っているわけではない、個人のテロリストの1人でしかない。憎しみを原動力に戦うべきではない、という本作の問いかけには、テロリストだけではなくアメリカ国民自体にも向けられている。
難しい問いかけではあるが、9.11直後のアメリカで、これを出そうと決断する姿勢は評価したい。
好きなセリフ
「正義を求めたい気持ちはわかるが」
「これは正義ではない。私たちにはほかに道があるはずだ」
「怒りの矛先は真の敵に向けよう」
イスラム系の青年をナイフで刺し殺そうとした男性を止めて。本作で共通するテーマのような言葉。
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