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元製薬企業研究者による再生医療講座~①再生医療概論(2/2)~

こんにちは、イトーです。今回のNoteは再生医療シリーズの続きです。
前回は、再生医療の概要をかみ砕いてお話しましたので、今回のNoteではより具体的な技術の説明とどこまで開発が進んでいるかをご説明していきますよ!

具体的にどう再生するの?

前回のNoteで、再生医療には、①細胞そのものを用いるもの、と②細胞以外のものを用いるものがあると書きました。では実際にどのような方法で、疾患や事故で失った機能を再生するのでしょうか?

①細胞そのものを用いる
いわゆる細胞治療や移植医療と呼ばれる領域です。基本的には、体性幹細胞や多能性幹細胞から、目的となる細胞を作り出し(分化誘導といいます。)それを治療に使います。

細胞を使う治療もここからいろいろと枝分かれをしていきますが、最終的に治療へ用いる形態の複雑性によって大きく分類する事ができます。

A. 細胞治療
細胞をそのまま体へ注入する事によって、治療効果を発現させることができる治療法です。その細胞とはまったく手を加えていないものもありますが、多くの場合は遺伝子改変を行って目的の機能を人為的に負荷したり、強化したりした細胞を用いる事が多いです。

がんの治療に革命を起こした免疫療法であるCAR-Tは、厳密にいえば機能を再生することはできませんので再生医療ではありませんが、遺伝子改変を施した細胞を生体に注入するという意味で、細胞治療には分類されます。

B. 組織治療
細胞を成型したり、すこし複雑な形態へ加工した組織を治療に用いる方法です。代表的なのは、細胞シートを作って、そのシートを臓器等の表面に張り付けて治療効果を発現させる治療で、例えば、皮膚、心筋、角膜などの治療を目指して開発が進められています。 

C. 臓器移植(に限りなく近いもの)
細胞や組織は、単一の種類の細胞によって構成されますが、実際の臓器は複数の種類の細胞から構成されています。その為、治療効果を高めるためには、生体と同じほど複雑な構造をもった臓器を移植する事が一番近道です。

その為、人の手で臓器を作る試みが多く行われています。例えば、多能性幹細胞を特殊な環境で培養する事によってミニ臓器(オルガノイド)のような構造になるように方向性を誘導してあげたり、細胞やシートを3Dプリンタ等で積層することで3次元的な組織・臓器を作りこれを生体へ移植する方法です。

そのほかにも、手術などで切除した実際の臓器の細胞を除去してしまい足場だけになった構造体に、幹細胞から分化誘導した細胞を植え付けて、臓器を作ってしまう脱細胞化技術なども開発されてきています。

あとは、ブタの体のなかで人の臓器を作らせて、それを移植する構想もあります。ブタの臓器等の構造は人に近いといわれており、大きさの似通っているので、このようなアイデアが生まれるわけですね。

②細胞以外のものを用いる
細胞以外のものとは、私たちの体をつくる過程で分泌される成長因子やホルモン等を単独あるいは組み合わせて使って、目的の治療効果を得ようとするものがあります。

それ以外にも細胞が分泌するエクソソームと呼ばれるような様々な物質を包含する顆粒のようなものを使って、人の体が本来持っている再生能力を活性化してあげたり、細胞の挙動を制御する方法も研究が進んでいます。

ただこれらの治療法はコンセプトがまだ確立しきっておらず、医薬品の承認を行う日本のPMDAや米国のFDAでも、ルール周りについて議論の真っ最中で、科学的な検証もまだまだ進んでいない状況なので、このような技術が世に出てくるには、いましばらくの時間が必要です。

今どこまでできるの?

再生医療は失われた臓器や失われた身体の機能を、完全に再生できる夢の医療ととらえられています。しかし、現状の科学技術では完全なる再生を実現する事はできません。

じゃあ、どのレベルの治療なら可能かというと、損なわれた身体の一部や機能を少しだけ補填するまたは、病気などの進行を留める程度の効果が、現在の再生医療が実現可能な範囲です。

例えば、やけどで失われた表皮を幹細胞から分化誘導した細胞等を使った皮膚シートで補充をしてあげる治療法は、海外でも日本でも実現されており、日常的な医療として提供可能です。

その他に実用化されようとしているのが、間葉系幹細胞を心臓疾患の方に注射をするような方法や、皮膚と同じように心筋シートを心臓の表面に張り付けるような方法が、臨床試験まで進み。その効果の検証が実際の人のからだで行われています。

また加齢黄斑変性症の治療へ、角膜シートを活用する事や、認知症の一種であるパーキンソン病患者さんへのドーパミン産生神経細胞の移植などが比較的進んでいる技術領域です。

その他の領域では、多能性幹細胞からの誘導技術の難しさや治療効果の基準などが明確化されていないため、基礎研究レベルでとどまっていることが多いです。

本当の再生はいつ実現する?

では、SFの世界で語られる臓器を丸ごと入れ替えるような再生医療は実現するのでしょうか?

ぼくは、それはかなり難しいのではないかと思っています。人体や臓器は非常に複雑で、科学で解き明かすために何十、何百年もの歳月が必要です。この人体の完全なる解明ができなければ、臓器丸ごとの再生医療は実現しないと考えます。

一方で、臓器丸ごとでなくとも、それに近いレベルの組織を使う方法自体は、実現性が高いです。いつ頃成立するかは、疾患領域や臓器によって異なってきますが、比較的技術的ハードルの低い疾患領域/臓器では、~10年のレベルで、細胞を用いた再生医療が一般に普及されるのではないかとの実感があります。

完全なる再生医療の実現は、もしかしたらぼくが生きている間には成立しないかもしれません。しかし、上記のようなまだ未成熟な技術であっても、再生医療という技術が認知され、臨床というリアルワールドで検証される事が重要なのです。

それによって再生医療を客観的・科学的に検証するデータを蓄積すると共に、社会・一般市民の再生医療という未知で新たな治療法に対する需要性を確保すること、これが再生医療という技術が市民権を得て、完全なる技術・医療へと昇華するために必須のきっかけなのです。

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一旦、再生医療シリーズ①はここにしたいと思います。この後のシリーズでは、個別の疾患領域や技術での、具体事例などを取り上げていきたいと思っています。リクエストなどあればぜひ!

こちらの内容はPodcastでも配信していますので、通勤時のお耳のおともにでも!!!
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