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元製薬企業研究者による再生医療講座~①再生医療概論(1/2)~

こんにちは、イトーです。
最近のNoteではビジネスの話ばかりしていますが、ぼくはもともと生物系の研究者として10年以上も基礎研究に携わってきました。その内容はどんぴしゃでは無いですが、一部再生医療と呼ばれる領域を含んでいます。

再生医療は少し前ではかなり過熱気味のブームとなっていたので、お耳にした方は多いと思いますが、"再生" という概念が独り歩きして、病気やケガをなんでももとに戻せるとか、クローン人間を作るとかおおよそ実態とかけ離れたイメージもまだ一部ではあるように思います(これはメディアがセンセーショナルに取り上げるからですが、正しい情報を積極的に発信してこなかった研究者たちのせいでもあります。)。

そこで、少しでも再生医療にたずさわるものとして、再生医療とは何なのか?何ができるのか?といったことをお話していきたいと思います。かなり込み入った話になりますので、一つの記事で長々と書かず、その時々のテーマを決めてシリーズ化していきたいと思います。

今回はその入り口として、再生医療という技術の現在と将来について書いていきますよ!

再生医療とは?

再生医療とは、その名前の通り、「失われたものを元のあるべき姿にまで復元する」ことを実現する医療です。"姿" とはなにかというと、例えば筋肉のような線維、皮膚のようなシート、脳のような臓器そのものの形ひいては機能のことです。

この意味において、再生医療とは細胞をもちいる医療と一般的にはとらえられていますが、厳密にはちがいます。これについては、次の項目でお話しますが、基本的には「機能を再生する」ための医療ととらえるのが、最も正確です。

生物における再生は多くの動物に備わっている性質です。例えば、プラナリア、キメラなどの原始的な生物では、切断した部分からすぐにからだ全体を再生し、別々の個体として生活をし始めます。イモリなどの爬虫類は簡単に失われたからだの一部がすぐに再構成されますし、サメなんかは狩猟能力を維持するために歯が常に生え変わる性質を持っています。

人間は再生能力がないといわれていますが、実際にはケガをすれば治りますし、一部の臓器は再生能力を持っていることが知られています。ただ、上にあげた驚異的な生態をもつ動物たちよりも、再生能力が劣るだけです。

再生医療という概念自体は、古くは15世紀頃までさかのぼります。最も初めの再生医療は「輸血」でした。失われた血を別の血液で補い、生命力を維持しようとした原初の再生医療です。

しかし、末梢血(いわゆる血液)には、寿命があります。例えば、赤血球では120日間しかありませんので、一度の輸血では効果が持続しませんし、何度も輸血を繰り返せば患者の体力は消耗します。またこの頃は血液型の概念もほとんどありませんでしたので、輸血を繰り返すたびに別々の人の血液を使うと、拒絶反応が起きる可能性が高まるわけです。

このような課題を解決するために考え出されたのが、骨髄移植です。骨髄は血液を生み出す源ですので、血液が生み出せない患者でも、一回の移植でかなり長い期間 造血能力を補う事ができます。

血液も骨髄も "細胞" です。このことから、細胞を用いた治療の概念が確立され、その後、様々な技術が派生してきました。例えば、皮膚シートを培養しやけどの治療に使う、心筋細胞を心不全患者へ移植する、神経が失われていく認知症の脳へ培養した神経細胞を補充するなど、機能を復元するためのさまざまな治療コンセプトに、多くの研究者と医療関係者がチャレンジしてきたのです。

しかし、初めに述べた「機能を復元する」ことが再生医療であるとの観点に立てば、その技術の主体は細胞に限らず、移植に執着する必要がないのはお分かりになると思います。また上にあげた、最も最初に生まれた再生医療コンセプトである細胞治療自体も、まだまだ想定したレベルまで達していないのが現状です。

再生医療の材料は?

さてでは、実際に再生医療はどういう方法で行うのでしょうか?まず原初の再生医療である輸血の課題を解決したのは、骨髄だといいましたが、この骨髄は「幹細胞」と呼ばれる分類に属し、血液という元の細胞と異なった細胞を生み出す能力を持っています。

細胞を使った再生医療では、この無限に違い(実際は有限の)細胞生産能力を持つ幹細胞を使う事が多いです。幹細胞とは、木の幹のように元の細胞とは異なる、さまざまな細胞を生み出す能力を持った細胞のことを指します。

ちなみに、この細胞が生み出される過程を分化といいます。分化とは、単純なものが異質・複雑なものへ変化していくことを指しますので、骨髄が幹細胞、その子供である血液は分化細胞と呼ばれます。

そして、この幹細胞にも多様なタイプがあります。主要なタイプとしては、以下の3つが挙げられます。
【①(Mono-potent/Uni-potent)体性幹細胞】
特定の細胞のみに分化することができる細胞です。例えば、皮膚のみに分化する皮膚幹細胞、肝臓になる肝幹細胞、等です

【②(Multi-potent)間葉系幹細胞】
いくつかの種類の細胞になれる細胞です。間葉系幹細胞を例に挙げましたが他にもいっぱいあります。例えば、間葉系幹細胞は、骨、軟骨、脂肪等の細胞になりますし、他には複数種類の細胞になれる神経幹細胞なども代表的です

【③(Pluripotent)多能性幹細胞】

マスコミは万能細胞と呼んでいますが、万能ではありません。その能力には限りがありますが、非常に多くの細胞種(ほぼすべての体を構成する細胞)になることができる多能性を持っています。
京都大学の山中教授がノーベル賞をとったiPS細胞が今では有名ですが、iPS細胞の基になったES細胞なども存在しています

これらの細胞は、基本的には③から派生してきた細胞です。つまり、③が分化して②を生み出し、②の子供が①で、①から私たちの体を構成している皮膚や胃の細胞などの、いわゆる終末分化細胞となります。

これらを細胞を使った再生医療の材料にするわけですが、細胞以外にも再生医療の手段があるといいました。

細胞以外の手段とは、私たちの体が本来持っている再生能力を高めるための、薬や因子などを投与する事で治療を実現したり、究極的には細胞や臓器の機能を模した医療機器で補うことも再生医療といえます。このような新しい形の再生医療は、まだコンセプトとして出てきたばかりで、細胞治療に比べると、実用化までにはまだまだ距離が遠いです。

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ここまでは再生医療の概要と材料という基本的な知識について、ご説明をしてきました。少しは再生医療というSF世界の技術が、実現可能な現実性をもってきたという事を感じていただけたでしょうか?

今日はいったんここまでにして、次回Noteで実際に再生医療が技術や医療観点でどこまで進んでいるかを、より詳細にお話していきたいと思います。

次回もご覧くださればうれしいです!

こちらの内容はPodcastでも配信予定です。次回アップロードは、11/20 (月)なのでお楽しみに!!
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