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元製薬企業研究者による再生医療講座~④眼、歯、毛髪の技術開発の現状~

みなさん、こんにちは! イトーです。
今回は、熱しやすく冷めやすいぼくが、珍しく長く続いている再生医療シリーズ第四弾です。

Podcastのリスナーさんからリクエストのあった、目、歯、毛髪に関して、現状の開発状況や再生医療が適用可能な疾患等について概説していきたいと思います。

ちなみにこの領域は専門ではないので、ぼくも勉強しながら記事を書いていきますので、間違い等あればご指摘下さい!

眼、歯、毛髪の共通項

これら3つの組織は全く異なるものでありながら、共通項を持っています。そして、この共通項こそが、再生医療の研究開発のアクティビティ(活発に行われているか、それとも下火であるか)に関わっています。

その共通項とは、再生能力が(軟体動物や爬虫類などの動物種に比べて)低い哺乳類の中でも、基本的には "再生能力をもつ組織" である事です。その為に、わざわざ高いコストや時間をかけてまで再生医療技術を研究開発する必要性が、比較的低い領域であるといえます。

一方で、眼も再生能力を持つといいましたが、厳密には正しくなく、眼のうち、最外部に位置し、傷つきやすい角膜上皮のみ再生能力を持っており、それよりも内側にある角膜内皮および網膜は自然には再生しません

その為、今回取り上げる3組織のうち眼は、再生医療技術の研究開発が活発な分野となっています(が、プレイヤーは限られています。)。

また歯や毛髪も、基本的には、というか健康的な状態では再生能力を有していますが、何らかの障害・疾患や老化(再生回数の上限に達した場合)には、再生する事ができませんので、このようなケースに対しての研究開発は、一定数行われているのが事実です。

眼の再生医療の現状と未来

眼の再生医療は、上で述べたように比較的研究開発が活発に行われている領域です。角膜内皮や網膜が自然的な再生能力を持っていませんので、これらが障害される疾患が、適応症として開発が進められています。

例えば、網膜の中心部にあり、ものを見るのに重要な働きをしている黄斑と呼ばれる部位が変性してしまい視力が損なわれる進行性の疾患である加齢黄斑変性症や角膜が変性してしまう角膜内皮症や水疱性角膜症が挙げられます。

その中でも眼の再生医療といわれて真っ先に名前があがるのは、神戸市アイセンターの高橋政代先生です。加齢黄斑変性症に関する細胞治療法を開発しており、再生医療関連企業とも連携しています。また株式会社ビジョンケアを立ち上げて眼に関わる疾患の治療法を企業として開発を進めています。

角膜や網膜の移植に関しては、すでにiPS細胞技術に依存せず、ドナーから得られた組織を移植する事で、治療効果が見られている確率した方法があります。しかし、免疫適合等の観点から、ドナーを見つけるのに時間がかかる/必ずしも見つかるとは限らない為、iPS細胞等によって高い移植組織供給能力の確立が求められている背景があります。

加齢黄斑変性症に対する再生医療技術の開発では、網膜色素上皮(RPE)細胞をiPS細胞等から作成し、移植する方法が探求されています。すでに治験が行われており、2016年に数名の患者さんへの移植が行われました。

ただし、加齢黄斑変性症は進行性の疾患である為、移植された患者さんにとっては、非常に大きな機能の回復が無ければ効果を感じられないという点は、再生医療技術共通の課題です。

(まだ経過観察/分析の途上ではありますが、)上記課題に伴い、加齢黄斑変性症の治験においても、一定の進行抑制効果が認められています。

今後、さらなる解析結果が出てくるとは思いますが、より患者さんへの侵襲性を下げ(手術の簡便化、低痛化等)、かつ患者さんが回復したと実感できる程度の機能回復性を持たせる治療法を確立する、もしくは積極的に情報分析・情報発信をして、社会の期待値をコントロールする事が必須と思われます。

歯の再生医療の現状と未来

歯は、もともと一定の再生能力を持っています。

歯の中心にある歯髄は、幹細胞であり、子供から大人になるにしたがって歯が生え変わっていくのは、歯髄の能力に依ります。

加齢や事故によって失われた歯を補完する方法としては、インプラント、トラフェルミンと呼ばれれる歯の再生を促す薬物による治療やGTR、エムドゲイン法のような歯の再生を促す膜やゲルを使用する治療法がすでに確立しています。

ただし、後者の薬物や特殊療法による歯の再生促進は、治療前の段階で、歯髄による再生能力が残っていることが前提です。そうでない場合に選択される方法が、人口歯であるインプラントもしくは幹細胞の移植による再生医療です。

歯への幹細胞の移植に関しては、親知らず等の抜歯の際に自身の歯髄を細胞バンク等に保存しておき、必要に応じて、再度自分の口腔へ移植する方法がとられますが、この方法は、再生の方向性を完全にコントロールできるわけではなく、大きさや形状が理想の形として取り戻せるとは限りません。

またこの方法は、保険を適用するためには一定の条件をクリアしなければなりませんので、結局、価格やメリット・デメリットを考えて、インプラントか幹細胞治療のどちらかを選択する事になります。

インプラントは、結果が安定的である一方で、人工物であることから味や圧感を感じる能力は劣る傾向にあり、幹細胞治療の場合は、その逆です。

またすでに記したように、歯の再生医療に関する研究開発は、それほど活発であるとは言えないでしょう。なぜなら、もともと自然な再生能力を有していること、そうでない場合でも、幹細胞治療以外の治療法が確立していることと、生命に直結する障害ではないために、よりシビアな疾患に対するニーズが優先されるからです。

毛髪の再生医療の現状と未来

毛髪は非常に高い再生能力を持ち、ぼくたちの髪の毛は日々生え変わっています。これは、毛根に幹細胞が非常に豊富に存在していることに由来します。

毛根は、幹細胞の塊で、上皮幹細胞、毛包幹細胞、色素幹細胞、皮脂腺幹細胞の実に4種類の細胞が寄り集まっています。齢を採れば、これら幹細胞が少なくなる/機能が低下する事によって、色素を作れなくなり白髪になったり、毛そのものが生えなくなっていきます。

男性型脱毛症(AGA)や若年性/壮年性脱毛症に対する治療法として、毛包幹細胞やiPS細胞由来の各種毛髪に関わる幹細胞の移植治療等が、一定程度研究開発が、理化学研究所や大学、アデランスさん等の企業で進められています。

他方で、毛髪の再生に関わる因子(WNTタンパク質など)が同定されておりわざわざ移植せずとも、これら因子を振りかけたり注入する事で、再生を促すことが可能です。ゆえに、歯と同じ観点で、もともと再生能力が備わっていること、代替方法があること、生命に直結する障害出ない事を理由に、研究開発がそれほど活発でない印象となっています
(もちろん、生命に直結せずとも、歯や毛髪に関わる問題で苦しんでいる方がいる/課題が解決されていない以上、新たな治療法の開発が推進されるべきですが、リソースが限られていることを原因とした、あくまで優先順位の問題です。)。

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以上、今回は個別の組織領域に限って技術開発状況の詳細をお話してきました。もし、他の領域に関してお知りになりたい等のリクエストがあれば、メッセージくだされば、嬉しいです!

この内容はPodcastでも語っています。こちらにもぜひ足をお運びください。次回は2/14月にこの話題に関してアップロード予定です。
https://t.co/3g5U7ZxdFJ?amp=1


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