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楽しい場所まで駆けていって

今はない存在を書くのは界隈的に許されるのか分かりませんが、久々に思い出したら溢れ出して止まらなくなってしまったので書きました。何度も書き直しており、書けば書くほど”彼”から遠ざかっていくのが歯がゆい。彼からもらった楽しい気持ちも、過ぎ去った時間と感情に脚色された気がして、それが本当に私の抱いた気持ちだったのか分かりません。今手元にあるものはどれもこれもレプリカみたい。でも確かなことは、推しのことで悲しくて泣いたのは、彼が最初で最後だってことです。

アクシア・クローネについての備忘録

アクシア・クローネとは、2021年7月22日にデビューし2022年11月30日に卒業した、にじさんじ所属のVTuberだ。彼のアーカイブもツイートも、アカウントごと削除されているため、今あるものは全てが切り抜きである。彼のオリジナルはコラボ相手の枠か、公式の歌動画くらいしかない。
私の推しだった。今振り返っても、これほど熱を上げたVは他にいない。アクシアってどんな人だったの?と聞かれたら、私は「少年みたいな人だった」と答える。


明るくて真っ直ぐな綺麗に低い声。雑味のない声で活舌もいいから、声だけで苦手意識を持つ人はいないと思う。ゲーム中に声を張ると少年漫画の主人公みたいで、逆に雑談だけだと普段より柔らかくなる。外録音や外配信だと、バレないように声を潜めているからか、低くて気だるげに聞こえるのもギャップだった。
笑い声もよく目立つ。本当に「アハッ」って笑う。「ふハハハッ」って空気の抜けたような笑い方もするし、ツボるとずっとキャハキャハ赤ちゃんみたいに笑う。

普段張る雑談外配信ツボる

声におけるYouTubeリンク集

話し方

話していて言葉に感情が乗る話し方。エピソードトークに感情が乗るから、聞いているとその時の光景と本人が抱いていた感情が伝わってくる。美味しかった食事の話をするとき、「凄い美味しくてさ~」じゃなくて「すんっごい美味しくてさあ!」ってアクセントをつける。声優さんのラジオに似ていて、音声だけで楽しめる話し方をする。

最後の「大っ好きだった~」を聞いてほしい(https://youtu.be/_spBCK1OADo?si=9mkhKkenubsYtiaK

話し方におけるYouTubeリンク

姿

声や性格から想像されるより、強気そうな顔立ちをしている。大きくてぱっちりとしたつり目に、下まつ毛がバシバシなのが特徴。目のハイライトもキラキラ✨ってよりは、光を目に宿した獣、って感じで可愛すぎない。だいたい口はあきっぱで、▽←この形になる口とちょっと見えるギザ歯が動物っぽい。きゅっとつり上がった太めの眉も、頬の辺りで内に入る顔周りの毛も、勝気そうでキュート。総じて猫っぽい顔立ちをしている。

作画を担当した黒野ユウさんのXより画像引用(https://x.com/kuronoyuu/status/1418028021533929476

本人の男の子らしいカラッとした性格より、ファッショナブルな装いをしているのもいい。全身黒のタイトな戦闘服にマントだけ着崩しており、全体のシルエットがアシンメトリーになっている。ズボンの上から巻かれるガーターリングと黒ネイルが女性的で、戦闘服のいいアクセントだ。ハイネックから覗く首から上と、フィンガーレスグローブから出る指先だけ、という圧倒的に露出が少ない見た目も特徴。くびれてるウエストと細い腰、全体的に細くて長い。

上記と同様、黒野ユウさんのXより画像引用(https://x.com/kuronoyuu/status/1417434386002178052

性格

私は始めに彼を「少年みたい」と形容したが、それはクソガキムーブと純粋さにある。パフォーマンスだろうが、一つ上手くいくとすぐ調子に乗って周りを挑発する。自分の得意分野になると先輩面して喋りだす。男の子らしい趣味と男の子らしいプライドが、とても健全で「少年らしさ」に拍車をかける。にもかかわらず過去には、相当なアルバイターで貧しい時代があったり、環境がごたついて病んだりした時期もあるそう。いまいち繋がらないが、確かに包容力というか忍耐力というか、タフさはある気がする。

純粋さに関しては同期のお墨付きだ。にじさんじに入った理由が「自分が教えてもらったように、ゲームの楽しさを今度は自分が伝えたい」という時点で納得だ。彼は”本気が人には伝わる”ということを信じていた気がする。だから度を越したファンの言動を指摘するときも「嫌ってるわけじゃないからいつか届く」という旨の発言をしていた。普通だったら害を成す一部なんか切り捨てて、残ったまともな方だけを大事にしたらいいんだ。配信者は”リスナー”という一個体を統率するべきなんだから。

彼はそこが一番違った。リスナーとの間に縦の差はあまりなくて、王様みたいに簡単には切り捨てなかった。もうファンとは呼べないような人たちにも、ずっと真っ向から語り掛けていた。それは”団欒”という言葉が相応しい配信スタイルにも表れている。いつだって一塊を指す「皆”と”やりたい」ではなく、「皆”で”やりたい」と輪を囲んでくれる人だった。彼の配信は、自らが言っていた「友達とゲームしてるような感覚」そのものだった。
それは配信者のセオリーからすると距離が近く、リスナーの指揮が執りにくいものだ。同じ立場の生徒から言われても聞かないが、上の立場の先生から指摘されたら直すことはたくさんある。彼のやりたかったことは理想論に違いない。けれどそれを”配信者の適性がない”と一蹴するのは空しい。彼の望んだ理想はあまりにも温かくて幸せだった。そんな夢を見られた彼の配信はとても楽しかったんだ。私はそんな彼が好きだった。

メン限の一か月記念動画や卒業後のひまちゃんの配信から分かるように、彼にはやりたいことがたくさんあった。人生を彩ることに意欲的で、生きることに前向きな姿が眩しかった。妄言だけど、無意識に性善説を信じているような感じがあった。その高潔な純粋さに救われていた。結局人を救うのは、這い上がるためのアドバイスでも、絶望への共感でもなく、絶対的な正しさだ。彼が「いい人」と称されるのが分かる。彼には道徳の教科書の頃から揺らがない、正邪や善悪の価値観を感じる。



「法的な処理のために活動休止する」と聞いたときは「いってらっしゃい」と思えた。一か月経っても寂しい気持ちは湧かず、「だって活動するための休止でしょ?」と戻ってくることを無条件に信じていた。冬まで何度か思い返すことはあれど、悲しくなったことは一度もなかった。

「卒業した」という事後報告はタイムラインで見た。衝撃は受けたが動揺はしなかった。「そっかあ、戻った後の方が大変だよね」と分かった風でいた。混沌としたネットの反応を見ても、即席で設けられた同期の配信を聞いても、「そうだよなあ」とぼんやりと思うだけだった。そんな自分に拍子抜けしていた。

2022-12-09

「卒業」は「いなくなってもう二度と会えない」の意味だと、私が理解していなかっただけだと分かったのは、彼の軌跡が全て消えてからだった。ツイートが消えて、アーカイブが消えて、アカウントが消えた。彼そのものが消えて、自分のアカウントを探してみても、いいね欄にも再生リストにもどこにもいなかった。手の内に彼の痕跡は何も残らなかった。本当に感心してしまうくらい跡形もなく消えた。あれだけ好きだったのに。そうして初めて涙がこぼれた。取り返しのつかないことになったんだと分かった。あれだけ好きだった人がいなくなったのも、形ある思い出が何も残らなかったのも、もう二度と会えないのも、あまりにも耐えがたかった。推しのことで悲しくて泣いたのは、これが初めてだった。

その後、夜な夜な切り抜きを見漁って、何度か泣いた。好きだった彼を追い求めるようでも、何も忘れたくなくて思い出を搔き集めるようでもあった。とにかく必死だった。睡眠時間を削って片っ端から見ていた。一本の動画が終わるたびに、多方面への怒りと猛烈な悲しみに襲われた。「どうしてこんな彼が」と本当に悔しかった。それでもどう足掻こうが「もう戻ってこない」という現実が、全てを一息で踏み潰せるほど大きくて、結局莫大な虚無感に殺されるだけだった。

そんな夜を繰り返して行き着いたのは「アクシアは自分の楽しいと思う方へ駆けて行ったんだ」という結論だった。最初から活動のモットーを「第一に自分が楽しむこと」と明言していた。混沌とした楽しめない環境から飛び出して、自分の楽しめる場所へ行ったんだ。そう思うと納得できたし、"彼らしい"終わりだったのかもしれないと思えた。というより”彼らしく”あるために、ここで終わりにしたのかもしれない。やりたかったことが理想論だと気づいたら、そこから先は妥協の道のりだ。だから今もアクシア・クローネは楽しい思い出だけでできている。誠実に在ろうとしてくれたのか、正しく在ることしかできないのか、分からないけどその背中は押したいと思えた。「いってらっしゃい」って。『おおかみこどもの雨と雪』の雨を見送るシーンを思い出した。



この記事を書くにあたって、また切り抜きを見漁ったんですが、やっぱり好きだな~と思い知らされるだけでした。ずっと好きだろうし、アクシア以上に好きになるVは現れないと思う。というか、なくていい。
アクシアの配信を見てアンリアルライフを買ったんだよ。アクシアのおかげでゲームの魅力を知った人は、絶対にいるよ。それだけは伝わってたらいいなって思うよね。


思い通りにならない/ ゲームで泣く/ 台パン

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2021-08-24

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