見出し画像

【メイキング】短歌初心者はどうやって短歌を作っているか

はじめに

短歌、という創作ジャンルがある。

#短歌 でnoteを検索したらいろんな方の作品とか初心者向け解説とかが見られるので、短歌の魅力や作り方(正しくは『詠み方』なんだろうけど、今の私の感覚では『作る』の方がしっくりきている)を知りたい方は、そちらを読んでいただければ参考になると思う。

私は数年前からTwitterなどでポツポツと短歌を作り始め、去年の秋くらいから地元の短歌同人(サークルみたいなやつ)の歌会に顔を出すなどして少し本格的に取り組み始めた、まあ駆け出しの初心者である。

この記事では、そんな初心者が一首の短歌を完成させるまでの過程を紹介したい。
完全な自己流であり、あまり参考にならない(してはいけない)かとは思うが、同じような初心者の方、もしくは「短歌って気になるけど難しそうだし……」と敬遠されている方が、この記事を読んで
「えっ? こんないい加減なのでいいの??」
と短歌に対するハードルを下げてくれれば光栄だ。

ちなみに、今回完成させた短歌は次のようなものである。

短歌メイキング01

とりあえず、この形に至るまでの過程を順を追って説明していく。

1.「短歌の種」をゲットする①――お題を決める

私は創作意欲が旺盛な方ではないので、何もしなくても短歌があふれてくる、という状態にはなりづらい。

今回のきっかけは、Twitterで
「#リプもらった番号のワードを使って文を書く」
というハッシュタグとともに流れてきた、こちらのワードパレットだった。

短歌メイキング00

こういうものを見るとワクワクが止まらなくなるのがオタクのサガ。
さっそくリプライを募集したところ、フォロワーさんから

16番をみてみたいです!」

とリクエストを頂いた。

16番は紫苑色、お題ワードは「キラキラ」「美しい嘘」「諦める」。

とりあえず、この3つのキーワードを一つずつ使った短歌を3首作ってみることにした。

また、少し特殊な前提として、このお題を受けたアカウントは、普段から二次創作を投稿したり、他の方の二次創作にいいねを押しまくっている、いわゆるオタク垢である。
そのため、これから作る3首も、某ジャンルの二次創作(恋愛要素を含む)となっている。

※賢明な読者はお気づきと思うが、実はこのキーワード、いずれも完成形には使われていない。そこらへんの事情は読み進めればおわかりいただけるだろう。

2.「短歌の種」をゲットする②――連想ゲームをする

さて、指定されたパレットの色(どれも綺麗な色ですよね)を見ていると、

「なんかこれアジサイの色みたいだなあ」

と思った。折しも季節は6月、近所にたくさんアジサイが咲いていたので、そういう連想が出てきたのだろう。

ともあれ、今回は3首通してのテーマを「アジサイ」にすることにした。

そこからは、アジサイから連想される言葉や概念を思い浮かべていく。

例1「アジサイって言えばやっぱ色が変わるのが特徴だよねー。なんだっけ、土壌の酸性アルカリ性で変わるんだっけ?」

例2「アジサイって和菓子のモチーフにもなってるよねー。煉切とか寒天のやつとか、あー食べたくなってきた」

例1-1「土の性質で色が変わるんだったら、『桜の樹の下には死体が云々』みたいなネタ面白そうだよねー。あのアジサイがこんなに色鮮やかなのは実は!?的なやつ」

例3「そういえば近所のアジサイ、最初は白かったのにいつの間にか水色になってたなー。白いのあんまり見たことなかったから綺麗だなーって思ってたんだけど」

こんな感じで連想していくと、何となく歌になりそうなネタ、いわば「短歌の種」がいくつか出てくる。
時間があればマインドマップみたいな発想ツールを使えば、連想の幅が広がると思う。

3.短歌の形にする――とりあえず「形」だけでも

そんなこんなで、次のような3首を作ってみた。

帝幻短歌_あじさいの色

それぞれ、「キラキラ」「美しい嘘」「諦める」を使い、なおかつ恋愛感情をほのめかす(?)歌となっている。

……改めて読みかえすと、なんか甘い。いろんな意味で。

「アジサイ」でも「紫陽花」でもなく「あじさい」なのは、まあアリな甘さだと思う(「俺」と「オレ」と「おれ」が全部別の一人称だと感じるオタクなら、この感覚をわかってくれるはず)。
ただ、お題の言葉の甘さ(ロマンティックさ)に引きずられすぎて、短歌としての強度まで甘くなってしまってる気がする。
例えば一首めの「瞳」と「キラキラ」とか。両方ともロマンティック係数(?)が高いので、全体として下の句だけでティラミスに生クリームを乗せてハチミツをかけたみたいなことになってしまっている。

とはいえ、とりあえずこれで「短歌」としては形になっている。
ひとえに、5・7・5・7・7の定型を(大体)守っているからだと思う。
これはシンプルだけど重要なことではないだろうか。

「短歌は31文字におさめなきゃいけないから大変」

こういう声を聞くことがある。

だが逆に考えてほしい。

「31文字におさまってさえいればとりあえず短歌になる」と。

世の中には、リズムも字数も定型とは違う、いわゆる自由律短歌も存在する。
でも、私のような初心者が定型を奪われてしまったら、「何が短歌を短歌たらしめるのか」という問い――つまり「それって短歌なの?」という問題にぶち当たってしまう。

「何が短歌を短歌たらしめるのか」がわかるまでは、ありがたく安心と信頼の5・7・5・7・7を使わせていただこう。

ともあれ、これでひとまず出来上がりである。

あとは上の画像をTwitterにアップし、感想をくださったフォロワーさんにお礼を言い、一旦これらの歌のことは忘れて日々を過ごしていた。

4.推敲or改作する――歌のコアを見つける

冒頭に書いたとおり、私は地元の短歌サークルに参加している。
その歌会(昨今はやりのオンライン歌会だ)に提出する短歌の締切が近づいていたのだが、困ったことに何も思い浮かばない。ヤバい。

というわけで、急遽ピンチヒッターとして呼び出されたのが、先日作った短歌だった。

①土台となる歌を選ぶ
今回は、先に作った3首のうち、3首め「街じゅうの――」を選択。
理由は、上の句の「街じゅうのあじさいが白に戻ったら」というフレーズが気に入っているから。

土台の歌で言いたかったことを思い出す
次に、土台となる歌のコアもしくは肝、つまり一番伝えたかったニュアンスとは何かを自分の中で整理してみる。
「街じゅうのアジサイが白に戻る」というシチュエーションは、現実にはありえないものだ。一度色づいたアジサイは、もう白には戻れない(多分。ちゃんと調べたわけではないので間違ってたらすみません)。
なので、土台の歌で「貴方のことを諦めるのに」と言っている作中主体(歌の中の主人公≒「私」みたいなやつ)は、実際には決して諦めないのだろうなあ、ということになる。
つまり、この歌のコアとなるのは、いわゆる反実仮想、英語で言うと "If I were a bird..."みたいなシチュエーションだ、ということが自覚できた。

③言いたいことを際立たせる言葉を選ぶ
「貴方のことを諦めるのに」は感傷的すぎるのでバッサリカットし、それ以外で「街じゅうのアジサイが白に戻ったならば〇〇する」の〇〇に入る言葉を考えた結果、「これまでの嘘を全部話す」というものが思い浮かんだ。
街じゅうのアジサイが白に戻ることは現実には起こり得ないので、作中主体が「これまでの嘘を全部話す」ことも決してない。「街じゅうのアジサイが白に戻る」という情景自体がある種の嘘とも言えるし、このフレーズは下の句としていい感じなんじゃないかと思った。

④全体の形を整える
7・7の形にするために、助詞「を」を取って最後に「よ」をつけた。
「話すよ」か「話すね」で迷ったが、さっぱり感が欲しかったので(?)前者を選んだ。
文字の並びが重くなりすぎないよう、「全部」をひらがなにした。
上の句についても、さっぱり感を求めて「アジサイ」表記に変更した。

このようにして出来上がったのが、

街じゅうのアジサイが白に戻ったら、これまでの嘘ぜんぶ話すよ

という一首である。
よく見ていただければわかるが、最初に示した歌と違うところがある。
すなわち、上の句と下の句の間の「、」の有無だ。
なぜこの読点が消えたのかは、このあと説明する。

5.他の人の意見を聞く――歌会っていいな

さて、何とか締切に間に合わせて歌(詠草)を提出し、オンライン歌会の日を迎える。

会によって進行方法は違うと思うが、私が参加した歌会では、参加者の作った歌が匿名で公開され、それについてみんな(まずは指名された二人、そのあとは全員自由参加)がワイワイやる、というスタイルをとっている。

順番が回り、私の歌が読まれると、さっそくワイワイが始まる。
その中で話題になったのが、

「この『、』いるかな?」

ということだった。

私自身は、「あったほうが読みやすいかなー」くらいの「何となく」感でつけたのだけど、出てきた意見の中に

「読点ありだと、一呼吸おいて喋ってるみたいで落ち着いてる感じ。
読点がなかったら、一気呵成に喋ってる感じで勢いが出るね」

というものがあり、「確かに」と思った。

そして、改めてこの歌の作中主体の気持ちを考えてみたとき、
「この人あんまり余裕なさそうだな」
という気がして、最終的に「、」を取った。

歌会の場合、自分の歌の感想が聴けるだけではなく他の人の歌も鑑賞できるし、いろんな歌に対するいろんな解釈や意見を知ることができる。
最近はweb上でもそういうことができるのだとは思うが、個人的には実際に参加できる「場」がある人はリアルでも行ってみたらいいと思う。
いわゆる結社(塔とか未来とか)にはじまり、私みたいに地元の団体とか、学生さんなら大学のサークルとかもあるので、気軽に参加してほしい。
多分上手い下手関係なく歓迎されると思う。

ともあれ、これで今度こそ一首が完成した。
最初にお題を頂いてから確定するまで、足掛け一ヶ月くらいだった。

おわりに

ここまで、初心者が短歌を作る過程を紹介してきた。

改めて書くと相当恥ずかしいのだけど、こんなものでも何かの役に立つかもしれないという精神で公開してしまうことにする。
(ちなみに、この記事はほぼ一発書きである。ここからもわかるように私は本気で推敲が苦手なのだが、今回振り返ってみて「やっぱり推敲大事だなぁ」と感じた)

最後に少しだけ、個人的な短歌観を書く。
私は、短歌は必ずしも作者のリアルをそのまま詠んだものではない、なくていいと思っている。
そう思うのは、私の短歌のはじまりが、Twitter上で見た「BL短歌」(またいつか紹介するかもしれない)だったことも大きいかもしれない。
小説が私小説だけじゃないように、フィクションとしての短歌、作り手である「私」以外の作中主体の姿を借りて作る短歌もあっていいと思う。
ただ、フィクションとしての短歌であっても、現実に「私」が体験したこと、感じたことが入っている歌は、そうでない歌に比べて「強い」とも思っている。
今回作った歌も、コアとなる「街じゅうのアジサイが白に戻る」という発想の源は、2.の「連想ゲーム」の例3に挙げた、私が実際に見た光景だ。
実際に見た、自分自身の感覚に裏打ちされたものだからこそ、表現できるものがある。そんな気がしている。

散々に偉そうなことを書いてきたが、とりあえず言いたいことは、

短歌面白いからみんなもやろうぜ!!!


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?