父の背中
16歳。高校1年生の夏。
体育祭練習を終え、帰りの支度をしていた時だった。
「〇〇…」
担任から職員室に行くよう呼ばれた。
なにかやらかしちゃったかなぁ💭
そんな軽い気持ちで職員室に向かった。
中に入ると、学科長の先生がわたしを待っていた。
「…」
「お父さんが亡くなったそうだ」
なんの前触れもなく、一言。
頭のなかが一瞬にして真っ白になった。
それからの記憶はあまりないのだけど、わたしは理由を聞いたのだとおもう。
先生の席に座らせられて、母に電話するよう言われた。
その日スマホを持っていなかったわたしは、学校の電話を借りた。
あまりにも突然の出来事に手が震えたので
先生がダイヤルを押してくれた。
繋がった母の声は震えていた。
ただ「ごめんね、ごめんね」って何度も。
父は突然死だったそうだ。
前夜、母にお腹が痛いと話して、布団に入ってそのまま。
出勤日以外は、自分の部屋に篭っている事が多かった為、日中まで誰も気づかなかった。
異変を察した叔母(父の姉)がドアをノックするが返事がなく、仕事中の母を呼びだした。
部屋に入ると、父は、既に硬くなっていたそう。
一度泣きだすと涙は止まらなかった。
先生は、わたしの頭を撫でた。セクハラになるのではないかと思ったが、この際そんな事はどうでもよかった。
泣き顔を見られないよう俯いて職員室を後にした。
外は、雨が降り出した頃だったとおもう。
当時住んでいた寮に帰る途中、ルームメイトが傘に入れてくれた気がする。
友だちはわたしが泣いていることに気づいて、なにも聞かないで居てくれた。
自分の部屋に戻ってからもただひたすらに泣いた。(4人部屋だったから、ルームメイトに聞こえないように静かに。)
体の中の水分がぜんぶ出るくらい泣いた。
涙が収まって、家に帰る支度をしていたら、舎館のおじさんに呼ばれた。
また涙が出るから聞かないでって思ったけど、
舎館さんは容赦なく父の事を尋ねてきた。
そのあと、担任が寮にやって来て、またもや父の事を尋ねてきた。
…最後に話したのはいつか、父はどんなふうだったか、とか
警察か。とおもった。
雨が激しくなってきた。
母が迎えに来てくれて、わたしは母がさす傘に入って寮をでた。
担任といつの間に来たのか学科長に見送られて。
きっとこの光景は忘れることができない、
いつまでも脳内に記憶されている。
実家に帰る車の中で、わたしと母は何方とも発することなく静かに空間を過ごした。
雨音だけが響く。
わたしは、ひとり想いを巡らせていた。
実家に着く少し前に母の携帯の着信が鳴った。
それは警察からだった。
確か捜査が終わりました。とかそんなかんじの内容だったとおもう。
まだ若干夢の中に居るような気分だったわたしを現実に突きつけた。
どうか夢であってほしいと願ったが、覚めることのないリアルだった。
帰ってきた家は、全く知らない他人の家の様で、
安心できない雰囲気が漂っていた。
静かでスッポリと何かが抜けているみたいな寂しさ。
それからの事は、あまり覚えていない。
飛び飛びの記憶で、
見たことのない程ザァザァ降りの雨の中、棺と共に父が家に帰って来たのは頭に焼き付いている。
その日の夜、家族皆が父の居る母屋に集まっている中、わたしと弟はふたり、はなれ(離れ)に居た。
現実を受け止められない気持ちと死を目の当たりにした怖さに耐えられなかった。
弟もそうなのかなぁと思いながら、その気持ちを言葉にする事はできなかった。
この時、わたしは弟を分身と悟った。
だって、わたしと同じ境遇にいるのは弟だけなのだから。
ほんとうに信じられるのは弟だけ。
わたしは父の代わりに大黒柱になろうと決めた。
学校を辞めて実家に戻る事も考えた。
夢も家族を守る為なら諦めざるを得ない。
葛藤しと葛藤して葛藤して葛藤して。。。
家族の為に生きよう。
色々な想いを抱えて、ひとりで歯を食いしばって泣いて、気づいたら眠っていた。
目が覚めて、きのうの出来事が夢であってほしいと母屋に降りた。
が、やはり現実は辛いものに変わりなかった。
雨が止んだ霧掛かった空気に吸い込まれた。
いつの間にか家は御葬式仕様になっていて、
「お客様が来るから掃除手伝って」と言われ、
わたしは祖母と庭の枯れ葉を集めた。
途中、自治会のおじさんたちや、わたしや弟の友達の両親がやってきた。
焼香をあげ父の顔を見て泣きながら
「お母さんのこと、守ってあげるんだよ」
ってわたしの背中を叩いて帰って行った。
わたしだって泣きたいのに。
わたしの方が寂しいのに。
それでも、泣かないで前を向こうって頑張っているんだから、
わたしの前で泣かないで。
火葬前、父の遺影を抱えて母と一緒に頭を下げた時も、目の前に居たおばさんたちが一斉にみんな涙ぐんだ。
わたしも我慢していた涙が溢れそうになったけど母には泣き顔を見せないよう必死に堪えた。
こうして、わたしたち家族と父は火葬場に向かった。
父の職場の前で霊柩車が速度を落とした。
営業時間でありながら、何十人もの人が霊柩車に向けて頭を下げてくれていた。
思い出すと、今でも涙が止まらない。
父が皆に愛されていた証。
こうして文を書いている現在も、スマホの画面が曇って見える程に、泣きじゃくっている。
あぁ。やっぱり父にあいたい。もういちど声をききたい。
あの頃の事が蘇ってきて悲しい気持ちになる。きょう書くのはここまでにしようとおもう。
天国のととへ。
わたしのたったひとりの父親、
お父さんでありがとう。
20歳になったわたしは、あの頃と変わらないまだまだ一人前には程遠い、母親離れ出来ない甘ったるい娘だけど、
ととが応援してくれていた夢を、いまも追いかけて頑張ってるよ。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
わたしと家族にとっては、ほんとうに辛い出来事であります。
心の中に大切に保管しておこうとも思いましたが、
この想いが父に届けばいいなぁと思いながら、文に起こしてみています。
優しい目で読んでいただけると父も嬉しいとおもいます。
※写真はハタチの誕生日に友達が撮ってくれたわたしです。
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