[映画]マルコヴィッチの穴

 今夜のU-NEXTは『マルコヴィッチの穴』。1999年の作品。

 奇才スパイク・ジョーンズ。その奇才っぷりが遺憾なく発揮されただいぶ飛んでる作品だ。主人公は桁外れの技術を持った人形使い。操り人形師である。オープニングは彼の驚異的な技術を見せる。とてつもない才能を持っているのに、彼は無名であり、世間から黙殺されている。

 彼の妻はペットショップの店員で、だからと言ってこんなにいろんな動物を飼っているのか、というぐらい自宅が動物天国。この主人公夫婦の設定だけでもおなかいっぱいだ。

 主人公は類稀な人形使いだが無名で、ストリートパフォーマンスで小金をもらう程度の収入しかない。結婚もしているのにさすがにこれでは、ということで手先の器用さを活かして就職する。ところがこの就職先がまた普通ではない。オフィスがとあるビルの7と1/2階にある。7階と8階の間にある、高さが通常の半分しかないフロア、という設定なのだ。

 極めつけに、主人公はこの会社のオフィスの中で、俳優ジョン・マルコヴィッチの脳へダイブする穴を発見する。

 どうだこの全部盛り感。ここに書いただけでも全部感がすごいけれど、驚くなかれ、これで全部ではない。まだまだあるぞ。トンカツも牛肉もジンギスカンもウナギも天ぷらも全部一つのどんぶりに盛ったような感じだ。どれか一つのアイデアだけでも映画になりそうなものをかたっぱしからぶち込む。

 驚くべきはジョン・マルコヴィッチ(本人)の芝居だ。彼は脳の中にいろんな人が入ってくるという役を演じている。彼が演じているのはジョン・マルコヴィッチ本人の役だが、そのマルコヴィッチにはいろいろな人が憑依するし、異常な事態にも陥る。驚異的な人形遣いがマルコヴィッチに憑依して彼の肉体を操るとどんなことが起きるのか。

 このどこまでも奇想天外な物語を、類稀な演技力で表現している。マルコヴィッチが本人役で出ていることにより、彼の交友関係などがそれぞれ本人の役でカメオ出演していたりして、そういうのも映画ファンには楽しい。

 悪夢のようなラストシーンからエンドロールで余韻を楽しんでいると、エンドロールの中盤から音楽が切り替わる。ビョークだ。余韻が静かに去っていきそうになったタイミングで楽曲がビョークのものに切り替わり、作中の悪夢のようなシーンが思い出される。

 エンドロールの最後の最後まで、すべてが完璧だ。一分の隙もなく狂っている。

 この作品のオファーを受けたときの気持ちを、ジョン・マルコヴィッチ本人に聞いてみたい。

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