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[参考書籍紹介]『ユニゾン』

 小説を書くときには参考書籍を集めるのだけれど、少々変わった参考書籍を使った作品があるので紹介してみようと思う。

 それはこの本。

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 なにかの間違いじゃないかと思うような本でありますね。「プログラマのための」って書いてあるし。

 入り用の方はこちらからどうぞ。

 さて、こんな本を買ってきてどんな小説を書くのかと言うと、こういうものです。

「男と女が重なった部分はなんだと思う?」
「なんだって? なぜ急にそんな話になる」
「男と女をそれぞれビット列にして論理積を取ると共通のビットが抽出できる。すると結果は儳だ」
 おれは目の前のおれが何を言い始めたのかいまいちわからなかった。
「わからんか。男はU+7537、女はU+5973だ。十六進数の7573は十進数なら30007、ビット列にすると0111 0101 0011 0111となる。同じように5973は22899であり0101 1001 0111 0011だ。この二つの論理積はビット列で両方1のところを1、それ以外を0にしたものだ。だから0101 0001 0011 0011になり、これは十進数の20787であり十六進数なら5133だ。これをユニコードU+5133とすると儳という字が現れる。どうだ」
「どうだと言われても困る」
「面白いだろう。論理和なら絷だ。論理和じゃなくて普通に加算したら캪になる。文字を演算しているんだ。単純な加減算だとあっという間にコードの範囲外へふっとんで該当する文字がないという結果になったりする。それは面白くないから論理演算のほうがいい。文字と文字を論理演算することで別の文字に変換する。すると言葉と言葉から別の言葉が生まれる。ユニコードに1を足すとかそんなレベルじゃなく面白い。男∨女みたいな意味のある計算ができるんだ」
 それが意味のある計算だということの意味がおれにはよくわからなかった。意味とはいったいなんだったかな。

『ユニゾン / 涼雨零音』より

 これは拙作『ユニゾン』の終盤の部分。ユニゾンは人生の選択において、あの時もし別の選択をしていたら、のif が全部別々の並行世界を構成していて、それぞれの選択をした自分が並行世界を生きている、というような世界を描いたドタバタSF作品です。

 主人公は別の世界を生きている自分から暗号のようなメールを受け取り、それを解読しているうちに並行世界の自分と対面してしまい、さらにはそれぞれの意識が混ざり合って混乱を来す、というようなお話です。上記の部分は終盤で自分の部屋に自分がたくさん現れ、自分同士で会話をしている場面です。

 デジタルコンピュータはあらゆる情報をビットの集まりとして認識しているので、ぜんぶ二進数として表現できる。二進数は数なので演算できる。ということはコンピュータ上において、文字と文字は演算できるのではないか。四則演算はもちろん、論理演算もできる。やってみよう。

 その結果、このような小説が完成しました。この辺の話はstand.fm の音声配信でも少し話していますが、言葉において文字が果たしている役割というものがあり、同時に、文字には言葉を表現するという範囲を超えた力もあります。書道などは言葉を超えた文字の力を引き出す表現だろうし、もっと違う形でも、文字の持っている可能性を言葉から引き離すことができるのではないかと考えました。

 その結果、このような、朗読不能な小説ができたのです。文字を連れて言葉から逸脱する。

 このシーンは部屋の中に現れた複数の自分が、全員「おれ」で、その「おれ」による一人称です。最初は明確にそれぞれのおれは違う存在だったのに、このような会話をしているうちに混乱を来し、さらにこれまで登場していない「おれ」が登場したり、既に登場していた「おれ」と別の「おれ」が混ざった発言をし始めたりし、クライマックスに向けて混乱を極める。

 この作品は自分ではけっこう気に入っているのですが、既にある文学賞で散っており、なおかつ、完全な状態で公開できる投稿サイトもないのでお蔵入りになって手元に眠っています。どこかでこれを世に出すチャンスがあるといいなあと思ってます。

※もしこの『ユニゾン』に興味を持っていただける編集者の方などいらっしゃいましたら全文のPDFをお送りしますのでコンタクトしてください。

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