運命の子猫 4
朝ごはん
私は毎朝トーストを食べているようだ。
(朝はトーストを食べる)
と寝室のドアに貼り付けられたメモに書かれている。
(回して開ける)
と矢印と共に書いてあるメモを見ながらドアノブを回し、台所へ向かった。
トーストの場所は昔から変わらない。
炊飯器の横の茶色い編み籠の中から、6枚切りのトーストが入った袋を取り出した。
残りは2枚しかない。私はすかさずいつも持ち歩いているメモ帳に日付を書き込んだあと、
(トースト6枚切りを買う)
と書き込んだ。
トースターの中にトーストを入れる。
何分焼けば良いのか分からず、とりあえず時間を設定しようと手を伸ばす。
その時、テープで付けてあるメモが目に入った。
(五分焼く)
五分にセットして、椅子に座った。
「ニャー」
猫が私に向かって鳴いてきた。猫のための物も沢山買わなければならない。
メモをしようとメモ帳を取り出そうとしたとき、トースターから香ばしい香りがしてきた。
私はトースターに目を向ける。
「チンッ」
目を向けた途端、トーストが焼けたようだ。
(紙皿は食器棚の下 左から二番目)
私は紙皿を取り出し、食パンを乗せた。
「ガリガリガリガリ」
何か引っ掻く音がする。
音がする方を見ると、猫が冷蔵庫を引っ掻いていた。
「こらこら。あれま!」
猫を叱りつけたあと、冷蔵庫が開けたままになっていることに気がついた。
いつから開けたままにしていたのか分からない。
(冷蔵庫 開けっ放しだった6:00)
すかさずメモ帳に書き記した。
冷蔵庫を閉めて、猫を抱きあげる。
猫はとても暖かく、安心した。
抱きしめる暖かさはこんなにも安心するものだっただろうか。
途端に猫がとても愛しく感じた。
ゆったりと抱きあげたまま、トーストが置いてある席に座った。
「久子(ひさこ)さーん!おはようございまーす!」
朝ごはんを食べ終え、紙皿をゴミ箱へ捨てた後座布団に座り猫を撫でていると元気の良い声が玄関から聞こえてきた。
「はいはい!いつもお世話様です。」
猫を床に下ろし、玄関へ向かう。
私の家は毎週平日に8時から田中さんという方がいらっしゃるとメモ帳に書いてあった。
掃除や洗濯をしてくださるらしい。
「とりあえず、いつも通り着替えましょうか。朝ごはんはいつものトーストを?」
田中さんはゆっくりと私の目の前で話している。
「ええ。」
私が次の言葉を言おうと口を開いたとき、田中さんは少し開いたドアからこっそり覗いている小さな生き物に目を止めた。
「わっ!びっくりした。え?」
田中さんはかなり驚き、その声に驚いた猫はドアの向こう側へ逃げてしまった。