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個性因果律 第1話

第1話 初めての終末

はあ、はあ、はあ……。

寝覚めの悪い目覚めだった。
何か電撃のような衝撃が身体を駆け巡った。
それで目が覚めたのだ。

この感覚には覚えがあった。
ワン・フォー・オール。先代の人たちの“個性”。その一つがまた、目醒めようとしているのか。

それを実感した時、今度身体を駆け巡ったのは、紛れもなく、恐怖だった。

やばい気がする。 

ただそれ以上は何も言えない。
根拠のないことだし、それに、言ってしまった瞬間、後戻りができなくなるような気がした。 

「おはよう!と……どろきくん……」
「……?ああ。どうした、緑谷」
「あ、いや、なんでもないよ。今日も頑張らなくちゃね」
「ああ」

あれ?なんだ、目の前の光景が、遠く見える。まるで夢を見ているような……。

僕ら1年A組は、ヒーローインターンが一つの区切りを経て、雄英高校の学生寮に帰ってきていた。

「ボサッとすんなぁ!!!」
「うん!!!!」

ワン・フォー・オール フルカウル!! 

全身に5%の出力エネルギーを漲らせる。
そして、地面を蹴った。もちろん駆けるために。

「デク、おま……!?」

ガァァアアアーーーーン!!!!!!

地面が抉れた。

人は、大いなる力に召し上げられた時、自我もまた、召し上げられる。僕の人格が、大いなる力によって移り変わっていく。 

「「「緑谷!!?」」」

うぁぁああああああ!!!!!

悲鳴なのか咆哮なのか自分でもわからない。

しかし、自分が次に取る行動はわかっていた。破壊だ。破壊の限りを尽くすこと。

「テメェ血迷ったか!!?クソが!!!」
「みんな避けろ!緑谷……!!くぅっ!!!!!」シャリシャリシャリシャ…………ジュルルルダダンンン!!!!!!
氷のフィールドが張り巡らされたと思いきや、轟音は全く逆の方向から鳴った。

「「「轟!!!!!!」」」

「轟……、頭が……潰れて…………」

「デク……くん……?」

その後は、みんながどうなったのかわからない。その場を離れたからだ。
数十分だろうか数時間だろうか。
着地し、飛び去ったその場は業火で包まれていた。
僕はそうやって破壊の限りを尽くした。

なんというか、自分自身が、すごく大きな存在になっているような気がした。
瞬間、大いなる力が漲った。この力を僕は、放った。 

 

業火の中、僕は気づいた。そこは雄英高校だった。
破壊の限りを尽くすうちに、この大いなる力を、コントロールできるようになってきたらしい。それにより、人格が戻っていた。

「みんな、死んでるのか……?」
「おい、クソナード……。テメェ、よくもやってくれたな……」
「かっちゃん!!?」

すぐさま駆け寄り、僕は気づいた。かっちゃんの右半身が無くなっていることを。

「テメェのせいで。みんなお陀仏だ。俺もなんで喋れてんのかわかんねぇ。でも直死ぬ。きっと世界中、みんな死んだ。訳も分からねぇまま。どうしてくれるんだ、デク」

「……。僕は、僕は…………」

僕は、涙を流した。溢れた瞬間その涙は蒸発した。当然だ。涙を流すことさえ許されないだろう。

「まさに、“終末”だな」
「……!!《個性終末論》…………」

僕はしばらくその場でじっとする。
自分がしてしまったことを、しっかり飲み込むように、理解する。

「かっちゃん、ごめん、僕、世界を終わらせるよ」
「そうか」

お互いそれ以上何も言わず、僕は漲る全身の力で足を一振りした。 

すると、宇宙が見えた。地球が視界に現れ、横目を通り過ぎ、静かに消えてゆく。 

宇宙が破れ、外の世界へと吸い込まれていく。

そうか、これが“死”か。

  

 

じわじわと目が覚めた。

これで3回目か……。 

僕は、同じ夢を3回見た。
いや、これは夢なんかじゃない。

僕は、朝起きてから世界をこの足で滅ぼしてしまうまでを、何度も繰り返している。

僕は、この一連の終末騒動を、《個性因果律》と名付けた。

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