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一回性、あるいはモノガタリの力 ――『Beautiful The Carole King Musical』

こんばんは。かみなりひめです。

さて、早速ですが、

Beautiful
The Carole King Musical
観てきました!

2017年に公開されたこのミュージカル。
今回はその再演でした。

主役たるCarole King
水樹奈々さんと平原綾香さんによる
ダブルキャスト。

水樹キャロル初日にまずは観ましたが、
そこでは嬉しいお知らせも。

(これを直接に聞けたこと、
 後世まで語り継ぎたいですね)

ご懐妊中であっても、
カンパニー一同「ぶっ飛ばして」いく
という高らかなお奈々さんの宣言

ああ、水樹奈々はどこまでも
水樹奈々であり続けるのだなぁ
、と
微笑ましく思えてしまいました。

さて、このミュージカルの概要は、
Carole Kingの誕生からカーネギー・ホール
立つまでの軌跡を辿るもの。

このミュージカルの要は、彼女のアルバム
Tapestry』(邦題:つづれおり)です。

2017年の初回公演の前には、
このアルバムを買っていたワタクシ。

そして、この3年間も事あるごとに
耳にはしていたはずのCarole Kingの音楽。

ウォークマンから流れてくるその音楽に
心が動くことはあっても、
さすがに泣くまでのことはありません。

ところが、
"ミュージカル" という現場になると、
途端に涙が溢れてくるのです。

1. 蘇ってゆく「アウラ」

まずは少しばかり回り道を。

ドイツの思想家・ベンヤミン
複製技術時代の芸術』という著作で
アウラ」について述べています。

大まかにその概要を述べると、
オリジナル(原作)にあった「アウラ」は
複製されることでなくなっていく

というものです。

アウラ」の根拠とは、
それが存在する場所に、一回限り存在する
ということに求められます。

例えば、奈良の大仏を考えてみると、
あれは「ただひとつそこにある」からこそ
価値を持っているわけですよね。

同じような規格の、同じような大仏が
全国各地に存在していたとすれば、
奈良の大仏だけが価値を持つということは
なくなるでしょう。

ここで「価値」と呼んでいるものが
アウラ」ということになります。

これを、音楽に当てはめてみましょう。

今や、音楽ディジタルであることが
当たり前になっています。

ディジタル化された音楽は、当然に
複製することも容易です。

そうであるならば、
「いま・ここ」での一回限りの演奏が
持ち得ていた価値は、
複製された音楽にはないはずです。

その、複製された音楽が
失ってしまった「アウラ」を
復活させる行為こそが、
"ライブ" や "ミュージカル" なのです。

(ここまでの議論、詳細はこの本に)

生で音楽を感じること。
耳からだけでなく、波動として
身体全身で音を受け止めること。

私がミュージカルの場になってはじめて
涙を流せるほどに心を動かされた事実

それは、
この「いま・ここでしか味わえない
音楽体験をしたから、というのも
理由のひとつであったのでしょう。

2. モノガタリの力

さて、私が涙した場面には
とある共通点がひとつありました。

その場面では必ず
Carole Kingが歌っていたのです

それぞれ、場面の概要と
そこで歌われた曲を挙げていきます。

2-① It's Too Late

Carole KingGerry Goffinと離縁した一方、
Barry MannCynthia Weilは結婚を決める。

ライブハウスで二人の結婚を聞いたCarole
Cynthiaの計らいで歌うことに。

そこで披露されたのが、
この『It's Too Late』でした。

歌詞を一部抜粋してみましょう。
※ 邦訳は私に附したものです。※

And it’s too late, baby, now it’s too late
Though we really did try to make it
Something inside has died
And I can’t hide and I just can’t fake it, oh no no no

もう遅すぎるのよ、遅すぎた。
 何とかしようとしてみたけれど、
 私の中の何かが消え失せてしまって、
 もう隠せないし、ごまかせないの

Gerry Goffinへのメッセージとも
取れてしまうような歌詞の重み

彼と離縁するまでの歩みを観ている
観客からしてみれば、どれほどまでに
重厚感のある言葉でしょうか。

2-② You've Got A Friend

Don Kirshnerのもとを離れ、
カリフォルニアのLou Adlerの下で
アルバム製作を決めたCarole

いよいよ、最後の別れのシーン。

Barry MannCynthia Weil
Caroleのオフィスに駆け付けてきます。

さよなら」を言葉にしない代わりに
彼女はこの歌を奏でるのです。

You just call out my name 
And you know wherever I am 
I'll come running to see you again 
Winter, spring, summer or fall 
All you have to do is call 
And I'll be there 
You've got a friend 

私の名前を呼べばいいのよ。
 私がどこにいようとも、
 走ってやってきて、また会いましょうね。
 分かっているでしょう?
 冬でも、春でも、夏でも、秋でも
 名前を呼びさえすればいい。
 そしたらそばにいるわ。
 あなたには、友だちがいる。

これをCaroleが歌うだけではなく、
Cynthiaが、Barryが、そしてDon Kirshnerが、
歌の輪の中に入っていくのです。

この『You've Git A Friend』の歌詞世界を、
四人で体現してみせるのです。

最後に入っていくDon Kirshner役の
武田真治さんが、少し照れ臭そうに
歌うのもまた一興。

2-③ A Natural Woman

Lou Adlerの下、アルバム『Tapestry』の制作も
佳境に入っていくCarole

ある一曲を残して、レコーディングも
順調に進んでいきます。

その曲こそ、『A Natural Woman』。

Gerry Goffinとの共同制作であると同時に、
恋の始まりに味わう感情を歌うこの曲。

どうしても歌いたくない、というCaroleに、
Lou Adlerは「だからこそ歌え」というのです。

ここまでの収録曲は、恋による悩み・悲しみを
主題にしている曲が多いからこそ、
恋によって生じる喜びを表現した曲が欲しいと。

Before the day I met you, life was so unkind
But you're the key to my peace of mind
'Cause you make me feel
You make me feel
You make me feel
like a natural woman

あなたと出会う前は、人生は優しくなかった。
 だけど、あなたが私の心の安らぎのカギだった。
 なぜって、あなたが、
 あなたが私をありのままの私にしてくれたから

どうしても、ここの「あなた」(=You)に
Gerry Goffinを感じてしまうのです。

二人はこの曲で、どこまでもいける

このミュージカルの中で、何度も何度も
繰り返し登場するセリフです。

あの時の二人は、間違いなくそのことを
信じて生きてきたのです

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音楽だけでは知りえなかった、
背景にあるモノガタリ

観劇という形でそれを目の当たりにして、
やっと涙に至ったわけです。

私たちの感情を突き動かすものは、
やはりモノガタリなのだ
、と
改めて深く思わされたのでした。

3. おわりに

水樹奈々さんのバックバンド・チェリーボーイズ
坂本竜太さんの動画です。

2017年のときも、ミュージカルが近くなると
Carole Kingの曲をよく演っておられました。

音楽も、観劇も、ややもすると
また厳しい状況に立たされる可能性
ありそうな情勢です。

そうであるからこそ、
一回性とモノガタリの力を感じさせてくれた
このミュージカル「Beautiful」に感謝です。

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