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【プロット版】歌えぬセイレーンに愛の歌を

『御伽話「人魚物語」』の中にでてくる劇中劇。
ざっくり途中までですがたぶんこんな話です、という話。
いつか書き上げられたらいいなぁ。

原案

海辺で歌う青年に恋をして、人間になるために声を失った人魚が、彼を振り向かせるために歌を作り続ける話

―――いつか彼が、この愛の歌と同じ想いを私に感じてくれたらいい。
彼に贈る愛の歌が、私のために歌われる日が来ますように。
私は歌えぬかわりに、歌を書き続ける。それしか私にはできないから。
いつまでも、いつまでも、あなたを待っている。

登場人物

エラ・・・人魚。海辺で歌っていた青年に出会い、恋に落ちる。そして彼に想いを告げるため人間になることを決意する。人間になる代償として声を失った。歌を歌うことが好き。人間になって声を失ってからは、曲を書くようになる。朝焼けのような赤毛の髪を持つ。

フィリップ(愛称:フィル)・・・吟遊詩人。旅芸人たちと各国を巡る中で、エラの住む海の近くの王国にやってきた。興行中、練習のためしばしば海辺に来て1人で歌っていたところ、不思議な女性に出会う。しかしある日、不慮の事故で海に転落してしまう。エラの助けにより無事生還するが、助けられたことには気付いていない。ただ、朝焼けが綺麗だったことは覚えている。詩的な言い回しが多い。

あらすじ

人魚はある日、海辺で歌う青年に出会う。

「素敵な歌、今のはどこかのお話?」

彼は各地で見た美しいものたちや物語を
歌にして人々に聞かせる吟遊詩人だった。

人間の前では歌ってはいけない決まりがある上、
人魚である彼女は身を隠して、
彼と交流を深めていった。

しかし彼は各地を巡る吟遊詩人。
もうしばらくすればこの地を離れてしまう。

彼女はいつしか、彼と共に各地を巡り、
地上を旅したいと思い始める。
そのためには人間にならねばならない。
故郷を出ることになるのはひどい問題ではない。
しかし人魚が人間になるには、
声を失わなければいけない。
歌うことを愛する彼女にとって、
それは大きな問題だった。
人魚は悩んだ。

そんなある朝、人魚がいつものように
彼と話そうといつもの場所へ向かうと、
彼はすでにそこにいて歌っていた。

彼の歌う歌は全て
すっかり覚えきってしまっていた。
朝焼けの光の中、特に人魚が好きな一曲を
彼は歌っていた。

「Um…」

ほとんど無意識だった。
彼の歌につられて、人魚の口から歌が溢れた。

突然聞こえてきた美しい歌声に驚く彼。
しかし、そんな驚きもつかの間、
彼の意識はもうろうとしていく。

「これは…セイレーンの…歌…?」

そう、彼女はセイレーン。
その歌声は人を惑わせ、海へ導く。

彼はふらふらと岬から海へ落ちてしまう。

『セイレーンの歌は全てのものを"海へ導く"。
だから決して人間の前で歌ってはいけない』

人魚は知らなかった。
自分の歌声が人を惑わせてしまうことを。
「海に導く」とは、そういう意味だったのだと。

「ごめんなさい…!知らなかったの。
どうか、どうか死なないで」

彼女は一心不乱に彼を抱き上げ、
浜辺へ押し上げた。

海に落ちる前に意識を失っていたおかげで、
あまり水は吸い込まなかったらしい。
冷たい海水に浸かって震えてはいるものの、
彼は無事だった。

もう太陽は水平線を離れ、
燦燦と眩しく輝いている。
きっとこのまま
凍え死んでしまうことはないだろう。

「…ごめんなさい。」

きっと誰かが戻らない彼を心配して
探しにきてくれるはず。

そう彼女は信じ、彼の額にそっと口づけをして。

海へと戻っていった。

人魚は自分が人魚であることを心底呪った。
自分が人魚でなければ。
彼と旅をすることなんて簡単なことで、
さらには彼を殺しかけることなんてなかった。
彼を失うことがたまらなく怖かった。

「声なんていらない」

「私はただ、彼の側で、彼の歌を聴いていたい」

「彼がいる世界で生きていたい」

彼女ははっきりと気付く。

「私は彼にどうしようもなく恋してしまったんだ」

* * *

彼は言う。

「気付いたら、近くの浜辺で倒れていたんだ。」
運がよかったな、と口々にいう仲間たち。

「ほんと、運がよかった。
浜辺に流れ着いてよかったよ。」
人魚が助けてくれたのかもな、と誰かがいう。

「…朝焼けが、助けてくれたんだ。」
どういうことだ?と首をかしげるみんな。

「とても美しい、あの光り輝く
あたたかな朝焼けが僕を浜辺に導いてくれた。」

「そんな気がする。」

* * *

彼女は言う。

「お姉さま、私、人間になりたい。」
なに馬鹿なことを!と口々にいうお姉さまたち。

「馬鹿なことはわかってる。
でも、恋をしたらみな馬鹿になると、
お姉さまたちが言ったんじゃない。
しょうがないわ。」
泡になって消えてしまうかもしれないのよ、
と怒るお姉さま。

「何もしないままでいたら、
私はきっと後悔が残り続けて、
いつか消えてしまいたくなる。
それならあがききって、
泡になる生き方を選ぶわ。」
エラ‥‥とお姉さま方。

「この美しいヒレも、この美しい声も、
彼の隣にいくためなら置いていって構わない。」

「私、人間になる。」

* * *

彼が溺れかけて3日後。
彼がいつもの場所へ向かうと、
そこには朝焼けのような
美しい赤髪を持った女性が。
なぜか、濡れているようだ。

「…君は誰?」

「……っ…」

女性は少し口をぱくぱくとさせたが、
声が出ないようだった。
彼は慌てて、紙とペンを取り出す。

「ごめん、声が出ないんだね。字は書けるかい?
よければ、使って。」

紙とペンを受け取り、彼女はおもむろに書き出す。

『私はエラ。声は失くしたの』

『あなたの名前は?』

彼は答える。

「僕はフィリップ。
みんなにはフィルと呼ばれてる。」

「君はどこから来たんだい?ここで何を?」

(海から来たの。
あなたに会うためにここで待ってた)
そう心の中で呟きながら、彼女は海を指さす。

「えっ、海を渡ってきたのかい?
でも、船とかはなさそうだし…
もしかして、船が難破して
ここに流れ着いた…とか?
道理で濡れているわけだ…!」

「怪我はしてないかい?
近くに僕の仲間たちのテントがある、
まずはそこで体を温めよう。」

「おいで、エラ。」

彼は彼女の手をとり、足早に動き出す。しかし。

(どうしよう、
足の感覚がまだ慣れなくてふらついてしまう。)

「あっ…ごめん。つい焦ってしまって…。
テントまで僕が抱えていこう。
それでもいいかい?」

「っ…!」

一瞬固まって、彼女はこくんとうなずいた。
抱きかかえられた彼女は、
彼の肩越しに離れていく海を見つめる。
なんだか息苦しくて胸の動悸が激しいのはきっと、
肺呼吸にまだ慣れていないせい。

人魚は、―――否、元人魚は人間となり、
ようやく彼との真の邂逅を果たしたのであった。

To be continue…

こそこそ話

ほんとは人魚=マーメイドなのでしょうが、音的に「セイレーン」の方が心地良かったもので、「だいたい意味一緒でしょ!」と付けてしまいました。おかげ様でよくよく調べたらセイレーンって、もともとは下半身が魚じゃなくて鳥の姿らしいと知り、頭を抱えることに。でもいいんだ、重要な部分は歌声の方だし。
あと、人魚って肺呼吸?えら呼吸? 私のお話の設定ではえら呼吸ということにしています。理由は「下半身が魚である」という点しか魚要素ないのどうなの??と思うから。

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