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フッサール現象学を読み解くための2つのキーワード

はじめに


あらゆる哲学分野の中でも難しいとされている現象学。


その創設者であるフッサール著作は、時に‘’スコラ的難解さ‘’と呼ばれ、解説書(入門書も含む)さえも初心者には難しいと言われています。

そんな私も初めてフッサール現象学の入門書を読んでも

「内容は全く分からないわけじゃないけど、イマイチその核心が掴めない」

という状態でした。


「一体この人は何のためにエポケーやら還元などをするのか?」

と。


そして、それなりに解説書とフッサール著作を読んだ結果、

「フッサールの現象学を理解するためには、この考え方(視点)は絶対に外せない」

というものが段々と見えてきました。


加えてそこにはフッサール現象学を読み解くための2つのキーワードがあると確信しました。


そこで、この記事では

「そもそも出だしからフッサール現象学が何なのかさっぱり分からない」

「何が言いたいかは大体分かるけどイマイチしっくりこない」

と感じている人に贈る、フッサール現象学を理解するための最初の手引き的な内容になってます。

なので、ある程度フッサール現象学の知識がある人にとっては

「そんなことは当たり前だろ!」

と思うところが多々あるかもしれません。


しかし「その当たり前」を掴むのに苦戦している人が多いからこそ
フッサール現象学が多くの人にとって難解と感じられるのではないでしょうか?


なるべく噛み砕いて(時には語弊を恐れずに)説明するので、ぜひ最後までお読み頂ければと思います。


長い記事ではないので気楽に読んでください。



■ 読み解くためのキーワードその1


キーワードその1は、ずばり「相関性」です。


フッサールの現象学は終始一貫「何かと何かの関係性」を重視して話を進めていきます。

メインとしては「意識と作用と対象」の相関性と言えるでしょう。

(中には、‘’意識内‘’の何か何かとの相関性について語っているものもあります)

現実に存在している(知覚される)ものをベースとして、そこから色々と展開しながら、これらが一体どういう相関関係にあるのかをフッサールは解明していきます。

これは見方を変えると、

「何ものにも影響されないものは扱っていない」

とも言えます。


神のようなものはもちろん持ち出しません。



ただ、フッサールが現象学を展開していくにつれて、そういった‘’何ものにも影響されないもの‘’が発見されてしまった(そういったものを考えざろう得なくなった)のも事実です。


主なものとして「原箱船(不動の大地)」「生き生きした現在(生ける現在)」がありますが、詳細については省きます。

(ざっくり言うと、空間と時間の問題です)

この「相関性」を把握できないとフッサール現象学の核と言える「志向性」については理解することはまず不可能でしょう。


典型例としては「内在」「超越」の相関性です。

そして、この「志向性」を軸としてフッサールは自身の現象学を展開していきます。

その代表例が「地平」です。


「地平」は「内部地平」「外部地平」そして「世界地平」といったものがありますが、これらの相関性を駆使してフッサールは世界の謎に迫っていきます。

このように、あらゆる場面で「相関性」について触れているので、これを意識しながらフッサールの著作や解説書を読むようにしましょう。


「ここは何と何の関係について書かれているのか?」

に注目しながら読むと徐々に内容が分かってくるはずです。



ちなみに、フッサールの『経験と判断』の訳者である長谷川宏は本書あとがきで、フッサールの著作の読み解く手がかりとして

1:端的な把握

2:解明

3:関係把握

の3つの特徴がフッサール著作に見られるとし、これらを意識しながら読み進めることも非常に大切かと思います。


■ 読み解くためのキーワードその2


キーワードその2は「プロセス重視」です。


フッサールは、すでに事実として成り立っている結果自体については全く興味がありませんでした。


それよりも、結果自体が成り立つためのプロセスで

「何故そうなっている(何故そうなってしまっている)のか?と考えざろう得ないのか?」

ということに興味がありました。



もっと単純化にすれば

「私たちが当たり前だと思っていることを、なぜ当たり前だと思ってしまっているのか?」

に興味があったと言えるでしょう。


例として、主観と客観の二項対立で考えてみましょう。

ちなみに、ここでいう‘’客観‘’とは、科学的データを元に立証された何らかの法則をはじめ、多くの人が共有している文化、価値、倫理なども含んだものとします。

フッサールにとって「客観」はあくまでも結果です。


それよりも

「なぜ客観と見なさざろう得ないと考えてしまうのか(思ってしまうのか)?」

その秘密をフッサールは知りたいわけです。



つまり、

「客観と見なすあらゆる可能性の条件は一体何なのか?その条件は1つなのか?それとも複数あるのか?そもそもそんな条件はないのか?」

を明らかにしたいとフッサールは考えました。



ここで注意して欲しいのは、フッサールは結果(今の例だと‘’客観‘’)が存在しないとは一切考えていないということです。


超過激な観念者みたいに

「存在するものなどこの世には存在しない」

なんてことは1ミリも思っていません。

結果自体は確かに存在する。これは絶対に疑えない。じゃあ何で「確かに存在する」と思ってしまうのか?をフッサールは究明したいんですね。

そこでフッサールは、当たり前(◯◯が客観的なもの)だと思っている態度(フッサールはそれを「自然的態度」と呼びます)を一旦やめて、新たな態度(現象学的態度)に切り替えてその謎を探ろうとします。


そうでもしないと、結局は当たり前(◯◯が客観的なもの)だと思っている態度から得たプロセスしか生まれないからです。

フッサールにとって、それだと一種の心理学どまりになってしまいます。

(心理学は当たり前だと思われている事実を前提にして発展した学問だとフッサールは見なしていました)


こう聞くと

「いやいや、当たり前(◯◯が客観的なもの)だと思っている態度をやめるなんて無理でしょ!」

って思うかもしれません。


私もそう思います(汗)


しかし、フッサールはそれを徹底するために色々と策を出しました。

最初は「現象学的エポケー」という方法で自然的態度を一旦やめようとしました。



よく「現象学的エポケー」は

・括弧に入れる

・作用の外に置く

・排去する

などと言われますが、厳密にはそれぞれ違った役割と意図があります。

ここでは詳しい説明は控えますが、とりあえず今は自然的態度を一旦やめると考えてください。



また、「現象学的エポケー」とセットで「現象学的還元」というキーワードがよく登場しますが、これは自然的態度から現象学的態度へ切り替えるための方法の総称になります。

その方法を開始するにあたって最初にするのが「現象学的エポケー」です。


こうした方法でスタートしたフッサールですが、それをさらに徹底化します。


さっき「自然的態度をやめるなんて無理に決まっている!」と言いましたよね?


なぜそう思うのかをよく考えてみると、仮に自然的態度を一旦やめようとしても、常にそれを実行する時の‘’私‘’は世界の中に存在するものとしてやらなければいけません。


なので、世界の中に存在している(してしまっている)以上、世界の中のあらゆる自然性が否応なしに影響してくるのはもはや必然的です。


「自然的態度をやめるなんて無理に決まっている!」と思う(思ってしまう)のは、この自然性の問題が私たちの中に気付かずに根付いているからだと言えそうです。


後にフッサールはこの点を鋭く注視して、それを回避するために別のエポケーを作ります。


それが「超越論的エポケー」です。


これまたビックリですが「超越論的エポケー」は、いかなる意味においても私が世界の中にある主観性として考えずに、これまでの習慣化されてきた一切の意識の動きを一旦やめようというものです。


つまり、世界なき主観性の態度に変更せよってことです。

(もちろん、そういう態度になったとしても世界はそのままはあり続けるとフッサールは言ってますが・・・)


そして、この「超越論的エポケー」をはじめとする態度変更の方法の総称が「超越論的還元」です。



ここまでくると

「いくら何でもそれは無理やり過ぎだろ!」

って感じですよね?(汗)


実際、フッサールが今話した超越論的現象学の構想を世に発表した時、それまでフッサールを慕っていた多くの人達が彼のもとを去っていきました。


フッサールにとって、超越論的現象学でこれまで決して姿を表さなかった世界の超越の謎を何としても解きたい!という強い気持ちがあったのでしょう。


結果よりもプロセスを重視したフッサールが、どのような方法でそれを実施したのかを一部紹介しましたが、実際にフッサールの著作や解説書を読めば、いかにフッサールが綿密にそのプロセスを分析していたが分かると思います。


おわりに

以上がフッサール現象学を読み解くための2つのキーワードになります。


私にとってこの2つのキーワードはフッサール現象学を読み解くためだけなく、自分にとって面白く感じるためのキーワードでもあります。

また、これらのキーワードはフッサールだけはなく、他の哲学者の著作や解説書でも活用できると思います。


個人的にはカントなんかはそれに当てはまると思ってます(特に『純粋理性批判』)

この記事があなたにとって参考になれば嬉しいです。


最後までお読み頂きありがとうございました。


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