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これも「読み」ですか? 7

 現代川柳の「読み」の文章シリーズ第7回です。
 過去回は▼のマガジンにまとめてあります。

 さて、今回取り上げる7句も、川柳作家の海馬さんが「診断メーカー」でこしらえた、任意の名前を入れるとランダムに現代川柳一句を返してくれるサイト「アサッテの川柳」を使って選びました。

 なお、今回(2022年11月6日)入力した名前は、ウディ・アレンの短編小説集『これでおあいこ』の収録作品のタイトルです。

 こんな感じで……

 では、やっていきます。
 一気に8句いきます。

【1】

まよなかのすべてを旅に出してやる
/時実新子
真夜中=ごく個人的な時間を、ひらがなにひらいて、自由な旅へと解き放つ。シンプルではっきりとした意匠がさすが。ちょっとした雑貨屋に置いてあるような、印象に残る、商品価値のある句。

入力タイトル:『シュメード回想録』


【2】

標準語の情熱にいつも励まされる
/我妻俊樹

■ふだん標準語の者が地元の友人と話した直後などにどことなく方言に戻っていることがある。わたしもまた方言を持つ者だが、べつの方言を持つ者と話すときは標準語だ。励ましも励まされもする。「標準」の内部に折りたたまれたものを思う句。

入力タイトル:『肥満室の日記』


【3】

熟睡の後のぼんやりした手錠
/野中いち子
■不穏~。たしかに寝すぎると罪悪感をおぼえるのはなぜだろう。睡眠中なにもしていないのが後ろめたいなら「《睡眠》をしている」と思えばいいのではないか。あと起床中なにもしていないなら「《なにもしていない》をしている」でいい。よくない。

入力タイトル:『ビバ・バルガス!』


【4】

九回裏別に奇蹟もなく負ける
/川上三太郎
■後に取り上げられるのは奇蹟ばかりだが、もちろんそうでない試合のほうが多い。また、《勝つ》よりも《負ける》のほうがこの世の総数としては多いはずで、つまりこれはふつうの時間を描いた句である。こうなると逆に、奇蹟側の句も読みたくなる。

入力タイトル:『いたずらインクの発見と効用』


【5】

たたんだままの翼 口紅つけてみる
/ 遠藤泰江
■メイクをして外に出ることを「羽ばたく」とたとえることがあるような気がする。だとすればこの口紅は、羽ばたく=外に出る、ためにつけるのではない、その人本人のためだけの口紅かもしれない。というか、それも「羽ばたく」でいいという話か。

入力タイトル:『ハシディズム説話、および著名学者によるその解釈の手引』


【6】

てのひらにひよこてのひらこそばゆい
/大野風柳
■《ひよこ》だとか、ひらがなだとか、素朴な触覚の感想だとか、同語反復の構造だとか、いまはまだ幼児性っぽいかわいさがあるが、やがてひよこはにわとりに、幼児は成人になる。と、わたしは自分がこどものころのアルバムを見るときの顔つきに。

入力タイトル:『メッタリング・リスト』


【7】

ピカレスク西瓜の種の飛ばしあい
/小池正博
■あどけない、もはや牧歌的とすら言えそうなピカレスク。はたしてそれだけだろうか。飛ばしあいは飛距離競争ではないだろう。現代のピカレスクならすいかの種では済まない。それに、種を飛ばすにはすいかを割ることからはじめなければいけない。

入力タイトル:『成人講座』


 はいおわりです。こんなかんじで週1ペースでさくさくした歯ざわりでやれるといいな~と思ってますが、まあ、あれですね、思っていますね。

 で、ここを読まれるほどの方ならもはやご存知と思いますが、今回最後に読んだ小池正博さんの6年ぶりの単著が出るそうです。いつ。12月。すぐ。

 紹介ページをチラ見しただけで、あ、こりゃ良いや、とわかる本になっていますが、ぼくはなんの関係者でもありません。応援させていただきます。

 改めて、各句の作者のみなさんに、ありがとうございましたの11文字をお送りします。

 ありがとうございました

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