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これも「読み」ですか? 5

 現代川柳の「読み」シリーズ第5回です。
 過去回は▼のマガジンにまとめました。

 今回取り上げる8句も、第3回と同様、川柳作家の海馬さんが「診断メーカー」でこしらえた、任意の名前を入れるとランダムに現代川柳一句を返してくれる遊びのサイト「アサッテの川柳」をつかって選ばせていただきました。

 ちなみに、今回(2022年10月23日)入力した名前は、たまたま手の届くところにあった『ドラえもん』第5巻のエピソードタイトルです。

 こんな感じで……

 では、やっていきます。一気に8句いきます。

【1】

朝っぱらからパラドックスの踊り食い
/三田三郎
ダジャレ的というか、音から連想した単語を連ねた川柳はよく見かけるが、はっきり踊り食いまでするのがすがすがしい。音って楽しいね~という謳歌宣言だ。こうなると作家名で「三」を踊り食いしているのも楽しそう。

(入力タイトル:『のろのろ、じたばた』)


【2】

飛行機もりんごも同じ理屈です
/佐藤美文

■逆らって空を飛んでみたり身をまかせて落下してみたり。地球上のあらゆる事物は重力という理屈とともにある。加えて、川柳には575という引力の理屈もあって、飛行機とりんごはそれにしたがい引き合わされたようだ。77とかもあるよ。

(入力タイトル:『重力ペンキ』)


【3】

ふうじ目を柱で付る急な用
/『誹風柳多留 九編』
■読めない。「よさがわからない」ではなく、たんに意味がわからない。《その「封をした部分」だけどね、そこの柱を使ってぎゅっとやって封をしたのよ、なんせそのくらい急いでたから》か。そうだとしても読めない。だめだ。出直してまいります。

(入力タイトル:『ドラえもんだらけ』)


【4】

散らばった楊枝のうすい影をひろう
/渡辺裕子
■あんなに細い楊枝にもよく見ると影がある。それに気づき、あまつさえ拾いもする、かなり繊細な人だ。おそらく生きづらいにちがいない。と言いたいのはわたしも比較的繊細な人を自負しているからだが、いまは歯のあいだにはニラが詰まっています。

(入力タイトル:『つづきスプレー』)


【5】

おとなしいスープ皿から食べられる
/金築雨学
■スープが皿から食べられるのは当たり前だ。しかしこの句は現代川柳に特徴的な技「当たり前なことをわざわざ言う」の産物ではないと思う。似ているがちがう。つまり、スープのある景色に「皿から食べられている」という「見方」のフィルターをかけることで作られた句だ。という言い方をすると、やはり「当たり前」のように聞こえるだろうか。そうではないのだ。念のために言えば、いわゆる「うがち」でもない。あくまでただの「見方」で、しかもごくささやかなそれである。そのフィルターによって景色が動き出すわけではない。だから、(この句にかぎらず)そのフィルターで作られた句に対して「まるで動いているかのような躍動感!」と称賛するのは的はずれだ。しかし、そのフィルターによって………いや、そのフィルターをかけるという行為それ自体によって、句の景色に行為の余波のそよ風が吹くのだ。これは雰囲気の話ではなく、ぼくなりのロジカルな話として言っています。

(入力タイトル:『黒おびのび太』)


【6】

手を振りつづける 平凡が消えないように
/橋爪志保
■手を振って空気を撹拌し新鮮な酸素を供給することで平凡さを維持している。または平凡さを風圧でかき消してしまわないようささやかに振りつづけている。または…………とか考えつづけるのが平凡さ。

(入力タイトル:『宝くじ大当たり』)


【7】

子どものように秒針をふりまいた
/妹尾凛
■ふりまかれる細い針が時系列へのあらがいのように読めた。あまりに固められすぎたロジックで身動きができなくなりおもしろさを失った創作をいくつも見てきた気がする。ただし、最初から時系列をまったく無視した創作も退屈だ。むずかしい。

(入力タイトル:『うつつまくら』)


【8】

遠景を壊しはじめている振り子
/岡田俊介
■遠くのこと、というイメージから樋口由紀子さんの《式服を山のかなたに干している》《むこうから白線引きがやってくる》を思い出した。振り子の往復運動に線っぽいものを感じたのだと思う。イメージとはいえ、遠景を壊すのはもはや具象レベルだ。

(入力タイトル:『かがみの中ののび太』)


 おわりです。各句の作者のみなさんと、そして藤子・F・不二雄先生にありがとうございましたの11文字をお送りします。先生きっと驚かれるでしょうね。えっ、なんのことですか?と。ともかく、

 ありがとうございました

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