ラクロスとの出会い
加齢で指先から水分が失われ、レジ袋の口が開けられない。その日もドラッグストアで買い物をして、レジ袋を開けようと指に湿った吐息を吹きかけていたら、壁の張り紙に目が留まった。
「◯◯大学男子ラクロス部、新入部員募集中」
すぐ近くの大学だった。ラクロスか。マスクの下でつぶやく。わたしにはむりだ。こんなに指がカサカサのやつがやっていけるはずがない。
そのとき、出入り口の自動ドアが開き、縦長の布の袋を抱えた青年が入ってきた。袋の上端が自動ドアに当たってカツンと音がした。
ラクロス部員だ。
いやわからない。弓道部かもしれない。が、わたしはすでにマスクの下で「先輩」とつぶやいていた。いやだめだだめだ。こんなカサカサの指のやつがラクロスなんてどだいむりだ。
青年は霧吹きのようなものをかごに入れるとレジに向かった。自分の指やスティックに吹きかける滑り止めを入れるのだろう。指がカサカサだとスティックが滑って飛んでいき事故になる。だからわたしにはラクロスなんてむりなんだ。
もう一度貼り紙を見た。年齢制限はない。
レジ袋はまだ開かない。
心の中で、青年がわたしの指に霧吹きで水分を与えてくれることを期待し始めていた。
(ラクロスとの出会い/DRUGSTORE MAN)
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