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 滝のような汗。

 そう表現するときの「滝」とは、いったいどこの滝だろう。もちろん慣用句とわかってはいるが、仮にそれが岡山県の「布滝」だった場合、まずいことになる。なにせ、布滝はかつて、オオサンショウウオが棲んでいたと言われているからだ。

「オオサンショウウオが棲んでいるような汗」

 なにか意味ありげだ。オオサンショウウオのせいである。では、シンプルに「ナイアガラ」だとどうだろう。

 ある朝、社員Aが遅刻してきた。ふだんは始業の三十分前には来ているAである。同僚たちは心配して声をかけた。

「ナイアガラのような汗だけど、大丈夫?」

 大丈夫、とAは真っ青な顔で言う。

「でもお前、ナイアガラのような汗だぞ」
「ああ、それを見る観光客のようなもみあげだぞ」
「日本大使館だと思ってなんでも言って」

 うるさい。やがてAは心を閉ざした。これだからナイアガラは嫌なんだ。その点、岡山県の布滝はいい。水流はなだらかな岩の上を滑るように落ちていく。そこにはかつてオオサンショウウオがいた。なんて気持ちがいいんだろう。かつてオオサンショウウオもそう思っていただろう。

 驚くべきことに、布滝は「のんだき」と読む。

オオサンショウウオを描いてもらいました

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