線香花火の君へ
僕にトキメキを誘い、
あっという間の人生だった君へ。
✳︎
何年か振りに君の夢を見たよ。
経緯はちゃんと覚えてないけれど、
僕の塾帰りによく遊んだね。
君は別の中学だったけど、
何故か仲良くなって、
自転車鬼ごっこをしたり、
スケートボードをしたり、
都会で隠れんぼをしたり、
朝方になるまで遊んだね。
君の名前は忘れちゃったけど、
あの時の記憶は今もなお、
線香花火のように、
美しくも儚い想い出になっている。
✳︎
僕がまだ大学生で実家暮らしだった頃、
深夜のコンビニ前で声をかけられた。
「おー、メガッパやん!調子どう?」
Tシャツから絵柄を覗かせた君は、
ギャングのように声を掛けてくれた。
顔は覚えていたけれど、
咄嗟に名前が出てこない。
「調子てなんやねん」
僕はそう言いながら、君に歩み寄った。
「今何してんの?」
薄々は気付いていたのに、
僕は意地悪な質問をした。
君はバツの悪そうな顔で、口を開いた。
「社会人や、社会人!メガッパは?」
僕は大学生だと話した。
「お前はセコのかしこやからなー」
と君は笑って話した。
しばらくの間、僕たちの青春話をした。
でもごめんね。
その時も最後まで名前が思い出せなかった。
✳︎
そんな君が死んだと知ったのは、
大学も終わりに差し掛かる頃の、
中学時代の友人と飲みに行った時だった。
理由は交通事故だったらしい。
中学の時から君はスピード狂だったもんね?
自転車の速さはピカイチだったよ。
そうそう!
遊んでいた頃、君はお母さんから
よく電話が掛かってきてたね。
ガラケーをパカっと開き、
しかめっ面になる君。
「ババア」と僕に言う君が
少し羨ましかったな。
僕は親からのそんな電話が
一切掛かってこなかったから。
君と遊んでいたのも、
親に振り向いて欲しいから。
親に振り向いてもらう為に、
君を利用していただけだったのかも。
君が言うところの「ズルのかしこ」だね。
でもね、これだけは間違いない。
君と居るのは楽しかった。
君と居るのは勉強を忘れられた。
君と居るのは青春だった。
ただ名前はやっぱり思い出せない。
本当にごめんね。
今年もまた君の命日に線香花火を楽しむよ。
京都の有名な線香花火なんだよ?
線香花火って、君と僕の関係みたいだろ?
短いけれど、鮮明に覚えてる。
あの美しい綺麗な日々よ。
また夢で遊ぼうね。
そう言えばあの線香花火、
なんて名前だったかな?
メガッパ
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