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水木しげるの妖怪人類学

水木しげるさんの本を、久しぶりに読んだ。
「水木しげるの妖怪人類学」という本だ。
人類学というのは、おそらく文化人類学のこと。ある人々の持つ文化伝統を「他者の目」から見るように、研究する学問だ。
「妖怪」というのも、人間の文化に属することだから、文化人類学の研究の範疇に入るのかもしれない。
(民俗学という学問もあって、こちらは自分たちの文化を「自分たちの目」で見るように研究する分野。ただ、水木しげる先生にとって、この二つの学問の差にこだわりはないように思う)
妖怪がいるのは、日本だけじゃない。世界中のどこにでも、人間文化のあるところなら「お化け話」は必ずある。しかも、文化交流なんかなかった遠い国で、同じような妖怪が登場する。例えば、ヨーロッパの「バンシー」と日本の「泣きババア」、南米の「鬼女」と日本の「山姥」等々。
遠く離れた地域で、同じような妖怪が伝えられている。
なぜなのか。
簡単には答えが出せない。学問的な答えを出すのは、難しい。

水木しげるさんによれば、答えは簡単だ。
「目に見えない何か」の数と性質は、どの国でも同じだからだ。
お化けたちは、世界中に溢れていて、それを感じることのできる人なら、どの文化圏でも大体同じような像を結ぶのだ。

その確信は、水木しげるさんの絵に表現されている。先生の絵は、奥行きがあって、その世界に入っていけそうな立体感があるのだ。
だから、先生の絵を見ていると、心が落ち着いてくる。
なんだか、妖怪たちと遊んでいるような気分になってくるのだ。
外界の煩わしいことを断ち切って、しばらく、妖怪たちと戯れることができる。

小学校の頃、確かに自分の周りには妖怪がいた。
だが、学校や職場で神経をすり減らし、妖怪たちはいつの間にか姿を消していた。妖怪の「よ」の字も思い出さない日々か続いた。
その時、自分から全く「元気」が無くなっていた。

だが、「妖怪人類学」のページを一つ一つめくり、奇怪な絵を眺めるうちに、少しだけ、わたしの側に妖怪たちが戻ってきたのだ。

なんだ、あんたたち、ずっとそこにいたのか、と。

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