柳田國男「遠野物語」
「遠野物語」の模写が終わった。
ノートにシャーペンで写していた。半年以上かかったかな。
仕事の休み時間とか、家に帰って子供が寝た後とか、時間を見つけて模写していた。
それで、俺の中で何か変わったかな? 少しは成長したかな。
文章は上手くなったと思う。
よく、小説家になるために「小説を丸写しにする」練習方法があると聞くが。
それの、ごく短いバージョンだね。
それでも、半年かかった。
さて、模写していて色々気がついたことがある。
遠野物語は、「お化け話」が多い。名前のないお化けも登場する。実際に体験した人は、あんまり「お化け」に名前をつけなかったのかもしれない。
だけど、びっくりしたのは。
江戸時代の「妖怪絵巻」「妖怪図鑑」に出てくるのを思わせる妖怪が、明治時代の遠野地方に出没していることだ。
例えば、塗仏。
目玉が飛び出した、黒い坊主のような妖怪で、何をする妖怪なのか、詳しくはわかっていない。江戸時代には有名な妖怪だったのかもしれないが、京極夏彦氏の小説を読むまで、知らなかった。
ところが、この目玉が飛び出した謎の妖怪が、遠野物語に登場する。
遠野物語は文語で書かれているので分かりづらいが、目玉が飛び出した男がこちらを見下ろしていた…ということらしい。これは、造形的には塗仏に近い。
江戸時代に広く人々に知られていた妖怪の姿が、時代とともに人々の頭から姿を消した…だが、遠野地方には残っていた、ということだろうか。この化け物の話を柳田に伝えた人は「塗仏」を知っていたのだろうか?
それとも、塗仏と、この化け物は他人の空似で、系譜関係はないのだろうか?
さて、次は高女だ。
これも、何をする妖怪なのか分からない。絵だけが残っている。
どうやら、やたら背の高い女が、衝立の向こう側から覗き込んでくる、というものらしい。
これに近い妖怪が、遠野物語に登場する。
窓から女の人が覗いてげたげたと笑うなどと、恐ろしいことこの上ないが、何となく、この高女に近い気がする。
つまり、二つ例を出して何が言いたいかっていうと、江戸時代の絵巻ものや、鳥山石燕の本に登場する妖怪が、東北地方の農村に登場していたかもしれない、それが驚きだってこと。
他人の空似か、何か共通の言い伝えがあったのか。
今の私に調べる能力はないんだけどね。
柳田國男の全集を読んでいると、「あれ? 九州と東北で同じ言い伝えがある? 直接人の行き来があったわけではなさそうなのに、なぜだ?」という疑問が書かれている。遠野物語にも、それはある。
伝わったのか、他人の空似か、それとも、本当に塗仏や高女は、かつて日本全国に存在していたのか?
結論は出ないが、なんだか不思議な感じがして、楽しくなってくるのだ。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?