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戯作創作

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胸に一物、背中に荷物。(織田作之助)
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#創作

暑気祓い

 おや、今日は電灯カバーに張り付いているのかい。昨日は浴槽まわりをぴょんぴょん跳ねていたのに、まさに神出鬼没だな。  そんな天地のひっくり返ったままでいて、よく落ちないもんだね。ありがたいよ、手元にポトッてご登場をされると反射的に本ごとバチンと潰しちゃいかねないし。すんでのところで躱かわしたきみと「脅かしっこは無し」って約束したの、もう去年か、早いなあ。  あれ、もしかしてきみ、去年のあいつとは違う? どうも一回りほど小さいみたい、まさかあいつの子じゃないよね。そもそもき

短編小説 上京小娘ぶぅちゃん

 最近うんちんは寝言が多い。 「ぶぅ、と言ったのだった」  昼間は忙しくて時間がないからって、ついに夢の中で書くようになっちゃったんだ。ぶぅのお話ならおもしろくなること間違いないし、せっかくだから書きとめておいてあげようと思う。  ボクは「ぽて」、ぶぅ5才の誕生日パパに買ってもらったぬいぐるみだ。ぶぅの大学進学のための上京についてきて、というか連れてこられて、いろいろあってから、今はうんちん宅に居候している。  ぶぅとうんちんは、15歳離れたいとこだ。ぶぅのパパのお兄

短編小説 月下

【縦書き 2958字 全8ページ】

短編小説 薑

ダイダロスの子

【戯作エンヴォイ】 わが生の意味 なんなりと いつのころより 思いしを 古きに温ね 渉猟す 韋編三絶 涯しなく 憧れ抱き 真善美 若気を賭して 追いすがり はや廿年に なりぬべし 光陰如箭 游子吟 目にし耳にし 偽悪醜 嫌だ厭だと 避けたくも なまじ躱せぬ ソサイエティ 汚穢汚濁が 渡世なり デカンショ、ルソオ はたデリダ ルウトヴィッヒが 笑ってる 愛より差異と 笑ってる それならそうと 早く言え いまや四方は 鎖された のっぺり高く 隙間なく 重畳するは よもや

うみのこえ

【戯作パヴァーヌ】 冬ざれの海 さびしげに 波よせおくり ゆきかえり 風ふきさそう さむざむと 語りかけるは うみのこえ 目顔は知らぬ 例により 声さえ知らぬ 本名も noteで知った 人となり よわいハタチの つとめ人 京の都に ひとり住み 日記随筆 マッチング 世の中を書き 人を書き おのが文体 すでに持つ 人によりけり 好きずきは されど揺るがぬ ふみのあや 散文美学 これにあり 快哉おぼゆ あっぱれや 「文学」に疑義 ありし目に 「文」に「学」など 無縁ぞと 行

画家某氏へのラブレター

【戯作オード】  あなたの描く絵 世紀末 モンマルトルの 濡れた午后 パリの憂愁 ひと知れず 雨だれ歌う ジムノペディ あなたの描く絵 印象派 古きよき時 想わせる マネモネピサロ シスレーの いろどりひそむ 筆づかい あなたの描く絵 白のあや 光まぶしく あざやかに 影きわだたせ 濃きいろに 天使の梯子 われ照らせ あなたの描く絵 刹那いろ 動物静物 雪月花 街灯さえも 切なくて まほろば見しか 夢うつつ あなたの描く手 魔法の手 あぶらカタブラ 色と線 この身い

短編小説 悲嘆惨憺ダップンタン

 午後3時過ぎ、電車に乗り込み尻を落ち着けたとたん、朝にコーヒー昼に水あと飴ふたつ以外なにも入れていない腹がグルルとわめいた。どうも夜まで保ちそうにない。  最寄りに着いて、駅ビル2Fの寿司屋に直行した。閑散たるカウンター席をひとり占め、百円皿をよりどりみどり食い喰らう。あおさ味噌汁シメに飲んだらうつらうつらとやって来て、さっさとお会計に立った。 「ありがとございましたあ」  学生アルバイトに見送られ階段を下り、秋空の下に出るや、へそ下がギュルルとうごめいた。目方5kg