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神だって超える#38

 中位神であるデデとヒゼン。この2体により、ホーリッドに属する十の神全員と顔を合わせたことになる。この流れであれば彼らから認血アドミティを得られそうだと思っていたミチ。しかし、そう簡単はいかなかった。まずはゼウスからどこまで聞かされているのか確認をしなければならない。万能神の種を引継いでいることを知っているのかそうでないのか、そこで対応の仕方に雲泥の差が生まれる。

「なあなあ、ゼウスからどこまで聞かされたんだよ?」

 ナンプシーら3体の神の目を盗み、デデとヒゼンへと歩み寄って確認。ノッポのデデは見下ろす形で、憎らしい笑みを浮かべる。キツネ顔のデデの瞳は確認できず、どのような感情か汲み取るのが困難であった。
(コイツ悪そうな顔するな~。やっぱり役病神って、ひん曲がった性格なのか?)

「どこまでって言われても、此処で面白い戦いが行われるっちゅうんでな。ただ、観戦しに来ただけやで」
「……それだけ?」
「ん? それ以外に何があるんや」
「いや、だってよ。さっき俺のことを助けてくれただろう?」
「アッハッハ。ちゃうちゃう、確かに兄さんをピンチから救ってやったけど、兄さんが相手にするんはアイツらとちゃうからな。もっと大物との戦いやさかい、無駄な小競り合いを止めただけや」

 平然と言ってのけているが、どうやらこの先、もっと面倒な敵の相手をしなければならないのだと理解したミチは苦笑いを浮かべる。ゼウスが面白半分で彼らの好奇心を煽っただけとは考えにくいが、今のところ二体の神にとって、アミューズメントに来たノリ・・のようだ。

「大物ってちなみに誰のことか聞いたか?」
「んにゃ、それはお楽しみや云うて、教えてくれんかったわ」

 面倒事が次々と発生することに流石に疲れてきた。勿論、肉体ダメージを受けない神にとって身体的なものではなく精神的なものなのだが。

「なあなあ、疫病神って俺に取り憑いていたりしないよね?」
「そんなことはあらへん。疫病神に悪いイメージ持ちすぎやわ」
「どうやったら良いイメージになるんだよ」
「あんな、幸あるところに不幸ありなんやで。誰かが不幸になるからこそ、幸せになる者もおるって話や。俺はそれをバランスよくこなしているだけに過ぎひん。不幸があるからこそ、些細な喜びに幸せを見出す者もおるんや」

 納得はできる。金持ちがいれば貧乏人がいるのと同じサイクル。バランスとはいっても均等ではない。ピラミッド式のパワーバランスである。

「他人を不幸にしてバランスを取る力か。なんだか、やってらんない役目を背負っているんだな」
「そうでもない。案外、面白いで。自分の手の内で、そいつの幸せ不幸が決まるんやからな」

 あ、やっぱり性格がひん曲がっていた。歯を見せて笑ったデデからは悪魔のような雰囲気が醸し出ていた。

「君の素性については聞くなとゼウス様から釘を刺されているので、訊ねはしない。だが、一つだけ教えてくれないか? 君は見たところヒューマン族。もしかして、地球アースからやって来たのでは?」

 ヒゼンの口から飛び出してきた故国の名。ミチが頷くと、ヒゼンはその強面からは想像だにできない綻んだ表情をしてみせた。

「そうかい。以前の担当は地球だったんだよ。とはいっても、何百年も前の話なんだけどね」
「おお、そうなのか! 俺のご先祖達を見守ってくださっていたんだな!」
「ヒューマン族とは力無き種族であるが、彼らには豊かな想像力があると感心をしていたんだよ。俺が見てきた中でも、一番に見ていて面白い種族だったな。あの想像力をもって神になればイイ線までいくと思っていたけど、まさかゼウス様からの全幅の信頼を得るまでとはねえ」

 全幅の信頼を得ているかはさておき、ゼウスがミチに未来の運命を懸けていることに違いはない。この現状がゼウスの視た最善の未来のルートを辿っているのかどうかミチには分からないが、女王を護りユーキリアの被害を抑えたことで順調であると自信をもって言えた。

「ほう、神達の集いとは壮観だな。ちと我も混ぜな」

 エリザベルが妖艶な笑みを浮かべてやってくると、デデとヒゼンは厄介者を見るような表情へと変えた。咄嗟にエリザベルのことを一介の下界の者と見ていることがミチには分かった。十の神がすべて彼女の素性を知っているわけではないということか。

「女王様は引っ込んどきい。ここは今から戦場になるんでな」
「そうはいかん。我にも大きな仕事がある。――ミチ、ゼウスからは何も聞かされておらんようだが、あやつは我に何も口止めをしなかった。つまりは我からお主に事の顛末を語る上では問題ないということ」
「未来のことか?」

 エリザベルは頷く。それは今から起こることをエリザベルは既に承知の上のことだと伝えているのだ。無論、そんな会話を堂々と他の神々にも聞かせた手前、彼女は隠すつもりなどないようだ。

「ほぉ。これは面白い展開やな。下界の女王がゼウス様とお繋がりになっとるなんて予想外やわ」
「是非、俺達にも聞かせていただきたいものだ」

 エリザベルは少し距離を取っていたザックら3体の神を指で手招く。彼らはそれに気付き、いそいそと走り寄ってきた。

「時間はあまり無い、かいつまんで説明をしよう」


――「我が師であるメルンの死後、術者と繋がりをもっていたゼウスと我は正式に友好を築いていた。メルンの進言によりユーキリアの女王になった我であったが、今となって思えば、メルンはゼウスの未来の筋書き通りに我を誘っていたのかもしれん。いずれにせよ、女王となった我にゼウスは言った。来たる近い日に、ホーリッド全土を脅かす事が起こると。疑いはしなかった。奴の視る能力に間違いはないからな。我は奴の指示のままに動くことにした。現に、今こうしてお主達に説明しているところまでは、ゼウスの視た未来と一致をしておる」

「ああ、だからニートルに襲われた時も平然としていたわけなんだ。それならそうと言ってくれればいいのに」

 ミチの横やりにザックが慌てて口を塞ぎにくる。これに対し、エリザベルが不機嫌になるようなことは特にない。

「未来とはほんの違う言動で大きく左右をされる。このことをそなたらに話すだけで、わずかにズレが生じる。まあ、ここの説明はもう不要だな。既に分かり切っていることだ。では、何故この段階で我が話すのかということだが」

 この段階で明かすことによって最善の未来を進むことが可能だからではないのか。ミチはそう思っていたのだが、内実はそんな単純なものではなかったようだ。

「ここから新たな戦いが始まることまでは分かっている。しかし、戦いの火蓋が切られた先に関しては白いキャンバスだとゼウスは言った。それが指すところ、未来が視えないということだ」
「視えないやと? あのゼウス様が?」

 そんなことをゼウスが云っていたような気がする。どんな未来でも再作な結果に結びつく中で、一つだけ未来が視通せないものがあると。それはミチがこの過去に遡ってくる世界線。ふと、ミチはここからどう転じるのかは自分の行動一つ一つで変わってくるのだという重荷を感じ始める。

「我にゼウスは大きな仕事を託してきよった」
「というと?」
「ミチ、お主の身体を借り入れる。そうして、我の力をもって封印術を組み込む」
「……ふぇ?」

 突飛めいた案だと笑い飛ばしたいところだが、冗談をいうような女王様でないことは百も承知。彼女のその言葉の意味合いを必死に探ろうとしたが、中々に思い至らない。封印……この世において石版のことを指しているのだが、どうして自分の身体が関係しているのか。

「イーサンに施した封印と同じってことか?」
「似て非なるものだ」

 それ以上はエリザベルの口からは説明を受けなかった。いや、説明を受けるよりも早く、最悪の未来に繋がる根源が到来してしまったからだ。

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