神だって超える#7
ホーリッドには大きく3つの大陸がある。南半球のほとんどを覆いつくすシャンブリ大陸。北半球の西に広がるウドラン大陸。東にはレベット大陸。
”エルバンテ”はシャンブリ大陸の最南に広がる王国だった。
荒野から砂塵が舞う砂漠へとステージは移り変わり、三人は浮遊しながら進んでいた。
「あんたのダサいね」
紫色の羽を生やして飛ぶヴェリーに指摘されたミチは、ムッとして言い返す。
「バカ野郎! これはな俺達の世界では空飛ぶシンボルなんだ!」
頭頂部でカタカタと回るアイテムは、ミチが想像して創りだしたもので、スピードはあまり出なかった。質素な見た目で、まるでオモチャのようだとヴェリーは思う。
「アハハ~。いいじゃん、可愛いと思うよ~」
「そうだろ? 見た目が派手なだけで素敵だと思うヴェリーお嬢様には、これの良さがわからねえんだよ」
「なによ、お願いされたって付けたくないよ、そんなもの!」
「あーあ、世界のド○えもんファンの怒りを買ったな」
「ふん、聞いたこともないし」
「意外にフィットして、悪くはありませんよ」
不機嫌なヴェリーの横で、タケ○プターを装着したタナカが親指を立て、やけに真っ白で整った歯並びを見せる。
「あ、そ、そうなの。よ、良かったわね」
趣味の合わない者達と行動することに、ヴェリーは泣きそうになる。この調子で十の神を従えることなんて可能なのか?
(……無理かも、ゼウスしゃまぁぁ~!!)
エルバンテは赤土の壁によって、護りを固めていた。高さ3メートルほどの土壁は空中からでも端を捉えられない。中の建物も全てが土で出来ており、そのどれもがパサパサに乾いてヒビだらけだった。それもそのはずで、この惑星には圧倒的に水源と呼べるものがなかったのだ。
ベベットと呼ばれる種族の体内水分は、この惑星環境に適応しながら成長を遂げたこともあり、水分をほとんど必要としなくなった。ただ、圧倒的な資源の不足から文明を発展させられずにいるという。
「約千年前。ディライトによって破壊されるまでは、君の住む地球とは何ら変わりのない生活をしていたんだよ~。まあ、命があればなんとか対応ができるってことだよね~」
「そうは言っても、俺ならこんな質素な暮らしはゴメンだね」
「それはミチが、質素じゃない生活に慣れていたからでしょう? 今の彼らは産まれた時からこの環境なの。これが普通だと思っているし、質素だなんて思っていないんじゃないかな」
そうかもしれない。――そうかもしれないが、もっと楽しい文明を知っているのであれば、それを教えてやってもいいのではないか?
ミチはヒビ割れの王宮を確認して、小さく頷いた。
「上空からの侵入はベベットの警戒心を強めるかも。正面から入らない?」
「ヴェリーの言う通りだね~。それにアタシらの存在を神だと明かさないほうがいいかもしれない~。ディライトの件があるからね~」
4人は土壁が開けた場所を見つけると、その近辺に降り立って最終の打ち合わせを取り決める。
「あくまでも私達は異国の種族ってことにするの。彼らはまだ惑星の全部を知らないから信じてもらえると思う。ミチはヒューマン。マクマ様はドリアード。私はハーフリングで進めるわ」
マクマがドリアードだというのは、周囲に果実を纏わりつかせていることからも、なんとなく予想が出来た。地球で見ていたファンタジー世界も、案外、現実と合っていることも多いので馬鹿にできないとミチは思う。神になる以前の見た目を反映させているとするならば、今までどうして気が付かなかったのだろうか。ヴェリーは人間の容姿と大差なかったことに。
よーく見れば、小柄で色気が全くもってない……。栗色の毛がサラサラとしているので、ナチュラルカラーな外国のお嬢ちゃんだと初見では思ったほどだ。
(とはいえ、俺ってば最初に会った時に≪奇跡のSMマーメイドおっぱぶへようこそ≫の女王様だと思っていたんだっけ)
なんという恥ずかしい記憶に、彼は赤らんだ顔を覆ってジタバタとする。
「……ミチ、あんたには悪いモノでも取り憑いてんじゃない?」
「ミチ様は、過去に起こったヴェリー様とのイチャイチャを思い出し恥じらっているのです」
タナカの余計な説明によって、ヴェリーの顔を歪める。唐突な暴露に慌ててミチがタナカへと詰め寄った。
「なんで、お前が俺の考えてることを見抜いてんだよ!」
「私は貴方様の脳内で生成されておりますので、脳内リンクというものでつながっているのです」
「……俺は今、全裸も同然でお前に曝け出していたってことなのか」
「私も上半身が裸です。仲間ですね!」
親指を立てて歯を光らせたタナカに、ミチは返す言葉もなかった。
「もう、いいかな! アンタは本当に何を考えているの! それにタナカ! 私はコイツとイチャイチャしたことなんてないんだからね! 覚えときなさい!」
この様子を微笑ましく見ていたマクマが、ふと気が付く。
「なんだか、中が活気づいているみたいだね~。お祭りかな~」
確かにワァーワァーという盛り上がりを見せた熱気ある声に包まれていた。4人は意思を示し合い、王宮へと向かってエルバンテ内へと入っていく。
「リリブ様ー!」
「こっちにも手を振ってくだせぇい!」
多くのベベット族が王宮に向け手を挙げている。ベベット族の容姿を初めてみるミチは口を曲げる。
(おいおい、本当に悪魔みたいな容姿じゃねえか。うわぁー額に目ん玉があるよ……ちょっと引くわぁー)
4人に背を向けるベベット族の集団は、王宮から顔を出す一人のベベットへ崇め続ける。どうも、エルバンテの王位にあたる存在のようだ。
「皆のもの。私の生誕祭を祝い感謝する。存分に楽しんでくれ」
短いスピーチではあったが、それだけで盛り上がりはさらに膨れ上がった。雄叫びが続く中で、耳を塞いだミチとヴェリー。その中でマクマとタナカは平然な顔で群れたベベット族の中へと掻き進んでいった。
彼らの存在に気が付いたベベット族は、次々に歓声からざわめきへと変えていった。
「なんだこいつらは……」
「異国人だ、異国人だ……」
騒然とし始めた箇所にリリブが気が付く。どうやらベベット族ではない者達が数名入ってきているようだった。
「異国の者よ、私の生誕祭にわざわざ足を運んでいただき感謝する。しかし我ら、外の世界に疎い者ばかり。害がないとすれば、その正体を明かしてはいただけないだろうか?」
勝手に突き進んだ二人の背に追いつくミチとヴェリー。
≪おい、なに勝手に進んでいるんだよ≫
≪あそこでジッとしていても仕方ないかな~って≫
≪同意です。一刻も早く我らの姿を認識させるのが手っ取り早いかと≫
≪もう計画もなにもあったもんんじゃないわね≫
ひそひそと話す彼らに警戒心を強めるベベット族。その様子を横目に見て、穏便に話を進めようとしたヴェリーは、片膝をついて頭を垂れた。
「私達はホーリッドにある異国から訪れた旅人。私の名はヴェリー」
≪ほら、貴方達も私のようにするのよ≫
≪え~やだよ~。アタシ、神だよ~? 神以外に頭は下げないの≫
≪同意です。私もミチ様以外に下げる頭はございません≫
≪ちょっと! 少しは私に合わせてよ!≫
「俺はミチ! 神だ!!」
へ? ヴェリーは白目を剥いた。此処に入る前に確認したことは一体なんだったのか。
(本当に本当に……もう……嫌です……ゼウス様……)
「神だと……」
「おいおい、今、神って言ったよな……」
「……嘘……だろ……」
最悪な空気になってしまった。これは一波乱起こるかもしれない。ヴェリーが覚悟を腹に決めた時、バッとベベット族全員が膝つく。これは――。
「無礼を働き申し訳ございません、神様。なにぶん、こうして初めて目通しにかかりました故、お許しください」
リリブが謝罪の意を示す。ヴェリーは予想外の展開続けに気疲れをどっと抱えることになるのだった。
(ゼウス様、私も神をやめていいですか?)
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