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神だって超える#41

 四方に囲まれ色々と計算をするウェルダ。まず警戒を怠っていけない者は、目の前に立ちはだかるゼウス。彼の未来を視る力は無効化にし続けなければならない。次に後方のディライト。無効化をしたところで力業に打って出てくる。左右に構える中位神達に脅威は感じなかったが、前後に意識を取られることで、彼らの攻撃を食らいかねなかった。上空から見下ろした先、封印術を施しているエリザベルと体内に石版を宿したヒューマン族。

(ッチ! さっさと奴らを止めねえといけねえのに!)

「貴様らさっさと俺の目の前から消えろ!」

 再び黒い塊を出したウェルダだったが、左右から彼の身体を取り押さえる粘着性のあるロープのようなものが纏わりつく。その一瞬で黒い塊は萎んで小さくなった。

「なにをそんなに焦っている?」

 ゼウスの問いにウェルダは不愉快そうに奥歯を噛みしめる。直後に彼の後頭部を鷲掴みしてくるディライト。指に全力の力を注ぎ込んだ彼の指は、ウェルダのこめかみギシギシと締め付ける。

「くそっ! はなしやがれ!」

 無論、ディライトは命令を聞かない。ウェルダが剣を出して、ディライトの腕を斬り落とそうとした、その時だった。ウェルダの集中力がディライトに向けられたのを感知したゼウスが一気に詰め寄り、彼の腹部に大気のエネルギーを集めた砲丸を食らわせる。渦巻いた大気の中心から物凄い力の激風を放出されると、ウェルダは抗えないまま身体を浮かされ飛ばされる。

 無効化が消えた瞬間、ディライトは直ぐに斬り落とされていた腕を再生させ、飛ばされたウェルダへ向かって猪突猛進に襲い向かう。

「追わなくていいのですか?」
「俺達はあくまでも時間稼ぎだ」
「あとどれぐらい守ればエエんやろか?」

 三人は未だに封印術を唱えるエリザベルに顔を向けたが、彼女は目の前のミチへ術式を唱えるのがやっとで、三人が見てきていることに気が付いていない。

▼過去:神界▼
 ディライトの容赦のない拳が顔面や腹部に入る。ウェルダは黙ってそれを受けていた。どうして今、このような状況にあるのか、フラッシュバックする。――全ては全知神という存在がそうさせたのだ。

「神とはつまらないと思わないか?」

 突然呼び出されたウェルダは、全知神の思惑が汲み取れずに困惑をした。普段から神々の前に姿を現さない彼女・・。元より、他の神と関係を築こうともしていなかった彼女が、どうして自分を呼んだのかと疑問する。

「神とは下界の者を暮らしをコントロールするだけで、なんの恩恵も返ってきはしない。衣食住を必要としない私達にとって、なにを生き甲斐にすればいいのだろうか」

 まったくその通りだ。ウェルダは全知神の考えに賛同する。

「長い間生きているとな、どうして今を生きているのか分からなくなってくる。神が生まれし日から私と全能神はこの身一つで多くの神々と接してきた。今すぐ我が身にある種を抜いて、他の者に全権を与えたいところであるが……。その前に全知神として全てのことわりを知らないと気が済まぬのだ」

 なにかとんでもない話を持ち掛けてきそうだと直感した。神は歳を食わないと言うけれど、全能神共々、疲弊感が彼女達を老けさせていた。全知神は修道服のようなものを纏い、その姿を晒すことを嫌っていた。
 少し理由は違うが、ウェルダも己の姿を見られるのは好まんとするところから、もしかしたら全知神と似ているのかもしれないと感じるのだった。

「全ての理?」
「私と全能神が全ての始まりなのだと何の疑いも持たず生きてきた。だが、神が種によって生かされていると知った時、その種に宿る生命源が一体なんなのか追究したくなったのだ。だが、それを知るには余りにも無知。しかし、私も全能神も記憶にない存在が一つだけあった。それこそが大きなカギになると確信をした」

 全知神は惑星:ホーリッドと名指し、そこに住まう妖獣プリア族こそが原初の始まりだと考えた。さまざまな種族を創ってきた中で、彼らの存在は異質であり、誰もが創った記憶がないというのだから奇妙でならない。

「彼らの血を引継ぐ者を何度も神として迎えたが、残念ながら目当ての情報を引き出すことは叶わなかった。して、神よりも劣る種族ゆえに私の勘違いかと思ったところ、妖獣プリアには重要な秘密を隠し持っていることを知ることになる。以前からレベット王国の内情を知ろうと仕込んだ、妖獣の1匹だ。精神の神アナザーの協力のもと、私はその妖獣の目となり耳となった。偶然の産物というのか、その男は術者と呼ばれていた。魔法使いや宗教的なモノであると思っていたが、内実は違った」

 ここからは言わずもがな、儀礼式に参加した術者は謎の封印の石版を一年に一度解放する習わしがあった。別の組み込み式の封印術を行うためである。こんな石版を目にしたことがなかった全知神は、”これだ”と直感した。アナザーの力により、さらに深い術者の深層記憶を辿った。その封印が一体何をもたらすものなのか、その術者の記憶からは拾い上げられなかった。恐らく術者も知らないことなのだろう。
 だが、この儀礼式で執り行われる術印とは別に他の封印術を用いられていることを知る。サンリーという王妃の体内に施された術印。それと石版を守りし術印を解除した時に石版は解放されると。

 石版にかけられた術式が解かれた時、全知神は術者の身体を使って石版に手を掛けようとした。咄嗟に目の前に立ちはだかったサンリーは好都合だった。この女を殺せば術印をもう一つ解くことができるからだ。法衣に隠し持っていた鋭利な刃物を抜き取り、彼女の胸を一刺しする。

 すぐに取り押さえられ石版を入手することは叶わなかったが、確かに石版を囲っていたバリアのような術は消え去っていくのを確認する。

――「石版は全ての理に繋がる。私の知らない存在・世界が綴られているのだろう。私はそれを知りたい。それがどのような結末を迎えたとしても」

 全知神はコートに包まれたウェルダの頬を擦った。まるで愛しい子を撫でるように。

「力を貸してはくれぬか?」

 そう問われた時、純粋にウェルダの中にも知りたいと思う気持ちが芽生えていることに気が付いた。元々、退屈な日々に飽き飽きしていた頃だった。彼はそこに好奇心と暇つぶしを混ぜ合わせ、首を縦に振ることにする。

「他言無用で頼むぞ。無論、全能神にもな」
「はい。ただ、協力者を何名か付けても構いませんか?」
「それならば、アナザーとそれと親しいニートルを付けよ。万一の為に、彼らにホーリッドを担当に置いたのだからな」

 精神の神アナザーは相当厄介な力の持ち主だと聞く。能力だけなら上位神の中でもトップになるだろう。しかし、そのあまりに優れた力と危険さが表裏一体となっているため、全能神が彼の中位神以上を認めないという。
 アナザーの内々に彷彿する不満が手に取るように分かるようだ。そんな彼を利用しないわけにはいかない。問題は夜神:ニートルの方だが、これも万能神と全知神の意向と知れば解決することだろう。一番の難敵は未来を視通すことの出来るゼウスだろう。こちらの不穏な動きを察知すれば、すぐにでも動き出す。非常に厄介な相手。とはいえ、全知神がなぜウェルダに力を頼ったのかは彼自身にも覚えがある。無効化する能力はたとい、ゼウスですらも太刀打ちができないからだ。

――一方的に殴られ続けるウェルダはディライトの拳を掌で受け止めた。

「調子に乗るなよ。こっちは腹を括っているんだ。この状況になった以上は、今さら神殺しだなんだんてどうでもいい」

 彼はディライトの胸を貫いた。その体内から種を搾取するために。

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