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#15 人事パーソンはコンサルティング価値を提供する 23/12/11

みなさん、こんにちは。
今日は、人事パーソンの視座と価値を考えます。

もう少しスコープを広げると、バックオフィスや企画・管理部門といわれる間接部門に共通することを考えてみます(以降は人事部門を主語にして記述します)。

(実際のできごとを参考に詳細をデフォルメしています)
少し前に、依願休職の適用について、従業員の部門長から相談がありました。依願休職は、傷病休職や育児・介護休業など、就業規則で定義していない類のものに対して、柔軟に受け身を取るために解釈の余地を残しておいています。

さて、相談の内容です。
従業員Aさんは、母親と弟さんと同居していました。弟さんが不慮の事故に遭い、失命されました。Aさんの母親は憔悴されました。そこで数ヵ月間、付き添っていてあげたい、とのAさんの要望を受けた相談でした。相談時には、すでに弔事休暇や有給休暇を使って2週間ほど休んでいました。

ここまで聞けば気の毒な話です。Aさんの希望どおり、数ヵ月(3ヵ月程度を見込んでいました)の休職を認める判断を支持する方も多いと想像します。ですが、私の所属する人事部門は、依願休職の対象適用を見送る判断をしました。

母親のケアをしているAさんに心身の不調の兆候が現れていました。お母様の回復見通しも不明でした。Aさんとお母様の両者がそんな状態下、2人だけで24時間ずっと一緒にいる環境がしばらく続きそうだと判断しました。親戚、ご近所さんなど、近くに息抜きの会話ができる相談相手や、いざという時にフォローのできる人がいなかったことも考慮しました。

このような状況から、数ヵ月も休むことになれば、Aさん自身が早晩メンタルダウンしてしまう危険性がかなり高いと見えました。ですから休んで24時間ずっと一緒にいるよりも、母親を支えなければならないAさんが、まず健全な日常に戻っていくことがベターと考えました。そして、その環境を整えることが最優先と考えました。

ですから、依願休職をあえて選択しないことを判断しました。そうして、依願休職は適用しないほうが良いとの判断を相談元の部門長に伝えました。さらに、「まずAさん自身に地域の保健センターに相談に行く、または心療内科を受診する」ことを推奨する助言を行ないました。

ただ単に「ルールだから適用できない」と判断するならば、誰にでもできます。規程、ルールを盾にすれば良いからです。

Aさんの場合、心療内科を受診された結果、「休職を要する」診断が出ました。取り返しのつかないレベルに至る前に、早めに適切な医療につなげられたことは、本当に良かった、と今でも感じています。

一方、この過程では、相談をしてくれた部門長、およびその上の事業責任者、Aさんの直上長たる課長に対して、期待に添わない判断を伝えることは避けられませんでした。そして、案の定、「人事は理解してくれない」との感情と印象を持たれ、そのことを直接に言われることにもなりました。

では、もし仮に、Aさんが休職を要することになっていなかったとしても、わたしたち人事の判断が変わっていたかというと、そうは考えません。なぜなら、上記のとおり、いくつかの観点から考えて、より悪い状態になる確率が高いと判断していたからです。

当事者として感情や事実上の対応も寄り添いながらも、時に適切な距離感を取ることどちらも求められます。組織内の第三者として、その事象や従業員個人、あるいは組織、と対象物を俯瞰し、中長期の時間軸でより良い方向を探る視座に立ちます。その視座の価値は、組織内第三者としてのコンサルティング提供です。

人事部門の提供価値は、従業員が安心して働ける環境を提供する、
経営戦略に資する人的資本の稼ぐ力を向上する、事業戦略とその成長をドライブする、人材と組織のマネージメントプロセスの効率・効果を上げる、などがあります。抽象化すると、こんなところかと考えます。

これらは、従業員、経営の両方が視界にあり、当事者意識も高く、模範的で異論を挟む余地がありません。

一方、組織内の当事者として、経営や従業員と同じ目線を持ちすぎると、同質性が高くなります。その結果、視野狭窄になり、判断のものさしをグローバル(内に閉じない)や、意思決定の質に対する貢献はあまり向上していきません。

意思決定の質とは、

「その見方はなかった!」(多様性と認知範囲)
「論点AよりBの影響度が大きいね」(オルタナティブの提案)
「それはそもそも問題なのか」(イシューの見直し)
「なぜそれが問題なのか」(解像度上げ)

このような制約やメンタルモデルの境界条件を見直す、組織の慣性に抗う、そして、その意見を表明する、これらの合わせ技によって向上していくものと考えます。

その視座を持つためには、経営や事業を自分ゴトにする目線から、自覚的にズームアウトして距離を取ることです。

組織内当事者、純度99%はウケは良いですし、意思決定にもフォローすることで貢献しています。しかし、わたしは、純度100%当事者のボードメンバーによって行われる意思決定は危うさをはらむと感じます。ですから、人事部門が組織内の第三者として、人事・HRプロフェッショナルの立ち位置から、新たな気づきやインパクトをもたらす視点を提示することが存在価値になると考えます。ですから、自覚的に自組織と視座的な距離を取り、第三者のポジションを取る、が第一歩と考えています。それが、人事は、組織内コンサルタントになろう、と考える理由です。

みなさんは、組織内のどのような立ち位置で会社や事業を俯瞰されていますか。
それでは、また。

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