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足跡の雪

何故俺はこんな所を歩いている
知らぬ地で、知らぬ山奥で、知らぬ雪道を。
もう何時間経っただろうか。

こんな筈じゃなかった
くそっ

ざっ、ざっざっざっ

ざっざっざっ

辺りはやけに静かで、朦朧とした意識の中
耳に響くのは人一人分の足音だけ。

安っぽいスニーカーに染みてゆく雪
もうとうに足の感覚はなくなっていた。
ただここで立ち止ってはいけないと
その思いだけがこの足を動かしていた。

この雪道を歩くのには相応しいとは言えない
薄っぺらいウインドブレーカー。
ポケットの中に握り締めているのは
真紅に染まる包丁。

ここまできてしまったら、
もう取り返しはつかない。
俺が今一番考えなければならないのは、
この人気の無い雪道をこえた後のことだ。

くそっ

くそっ

くそっ

Qさえ逃げなければ、今頃計画は上手く
行っていたはずなのに。

あんな所で出会ったやつを信用するんじゃなかった。

少なくとも俺は完璧だった。
全て計画通り、いやそれ以上だった。

俺は悪くない。
その証拠に誰も俺を追ってこない。

ざっざっざっ

ざっ

ふと、俺は足元を見て気づく。

人が通ることのなさそうな雪道に
俺以外の足跡がある事に。

やはり追っ手が来ていたのか
くそっ
どうすればいい。
もうどうにもできないのか。


いや、

待て。

この足跡は
道の先に続いている。

この足跡を追っていけば、
俺は雪道をこえられるのではないか。

この永遠に続く雪道から

逃げ出せるのではないだろうか。

俺は足跡を追った。

ざっ、ざっざっざっ

ざっざっざっざっ

真っさらな雪に付いている足跡の形は、
どこかで見たことがあるような形だった。

そのうち、
怒りがこみ上げて来た。

この誰も踏み込んでいない白い雪に、
足跡を付けていいのは
俺だけだ。

くそっ

くそっ

俺の足の動きは段々と早くなってゆく。

くそっ

くそっ

くそっ

いつのまにか、感覚のない足は走っていた。

くそっ

くそっ

くそっ

くそっ

瞬間

辺りが明るくなる

木々に囲まれていた道から抜け出したのだ。

白く
反射する

やったぞ
俺は完璧だった。

ざっ





途端、身体が宙に浮く

いや、浮いたんじゃなくて落ちたんだ。

俺がそのことに気がついたのは

真っ白な地面に身体を強く叩きつけられてからのことだった。

どくどくと暖かいものが身体中を包み込む。
閉じかけた瞳で見上げたそこにあったのは、



#小説 #シリアス #雪 #短編


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