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好きという感情を殺すことにしました。

「しばらく忙しいから、また連絡するね」

テンプレートの様ないわゆる【脈ナシ返信】をして、わたしは今日、約1年半想い続けた後にも先にも人生で一番好きであろう人を好きでいることを辞める決断をした。

振られたわけでは無い。好きでいることを辞める、のだ。


そもそも彼は元カレで、振られるも何も現在恋人関係にあるわけでは無い。

別れたのは2019年の7月。交際スタートからわずか8ヶ月足らず。

しかも驚くなかれ、最後に会ったのは3月なのだから、満を持して「別れましょう」なんてメッセージを交わす前から、とっくに関係は破綻していたんだと思う。

仕事命でなによりも仕事が最優先。次点が家族と友達。

そんな彼なので、もちろんわたしの優先順位なんて後ろの後ろもいいところ。約束の当日ドタキャンは当たり前。「先約があった」と急に告げられたこともあったし、休みが合わないためわたしが有給を取り、彼の誕生日祝いとして我が家に招く約束をしていた日ですら仕事を理由に当日ドタキャン。作った手料理もホールケーキも、声を上げて泣きながら全て一人で食べた。

基本的に約束は平日の夜、仕事後にご飯行って泊まるという流れだったので、どうせ今回もドタキャンだと薄々分かっていながらも、約束の前夜はどんなに帰りが遅くなっても必ずボディスクラブにフェイスパックをして眠ったし、当日は少し早起きをして丁寧にメイクをし、とびきりのおしゃれをして会社に出勤していた。

それでも9割はドタキャンで、おそらくあの頃、わたしが利用している路線では【よく泣きながら電車に乗ってるOL】として有名だったのではないかと恐れている。

3月から度重なるドタキャンに遭い、とうとう我慢の限界に達したわたしがものすごい長さの怒りのメッセージを送りつけたのが6月末で、少しして「今は彼女という存在が負担」というあまりにも残酷な返信が送られてきたため、意を決して「別れましょう」と送ったのが7月頭というわけだ。

分かってはいたが、引き止める言葉などもちろん一言も無かった。

友達に話せば十中八九「そんなやつ辞めとけ」といわれる恋愛。もし自分の大切な友人が元カレと同じ様な人に夢中になっていたとしたら、絶対に同じ言葉をかけるだろう。

そんな彼でも、わたしはどうしても忘れることができなかった。


26歳の女性が「彼氏と別れた!」と声を上げれば、飲み会や合コンのお誘いを沢山いただけたし、紹介してくれる人もそれなりにいる。

数え切れない男性と出会い、二人でご飯に行く機会も少なくなかったが、その数を増やせば増やすほど元彼を好きな気持ちを思い出し、一時的な寂しさを紛らわせたりしても帰って枕を濡らすことになっただけだった。

顔が、性格が、年収が、ステータスが、と明確な理由があって元彼を好きになっていたのであれば、きっとそれを越える人と出会えば解決する話だったのだろうと思うが、元彼に対してはコレが!という大きな理由があるわけではなく、わたしにとってマイナスであるはずの恋愛の優先順位がとてもつなく低いというところすら含めてその存在全てが好きなのだということを、多くの人と出会えば出会うほど実感した。

元カレだったらこう言うのに。元カレだったらもっと仕事を優先するのに。元カレだったらもっと指がキレイなのに。元カレだったらスマートに奢ってくれるのに。元カレだったらもっと上手に甘えるのに。元カレだったらそんなファッションしないのに。元カレだったら…元カレだったら…。

究極を言ってしまうのであれば、されて悲しいことはあっても、元カレの嫌いなところなど無いのだ。もはや我ながら怖いと思う。


そんな調子で元カレを想い続け、不安と悲しみで1/3は泣いたといっても過言ではない2019年下半期を終え、気づけば2020年。事態は大きく動いた。

仕事始めの日に会社の先輩と飲みに行き、相変わらずぐだぐだと未練タラタラトークをするわたしを見兼ねた先輩が一言。

「そんなに好きなら連絡すればいいじゃん」

考えてみれば、復縁のセオリーとして書かれている冷却期間の半年が経過している。SNSは一切繋がっていない。連絡も一度たりとも取っていない。

やらない後悔よりやった後悔とよく云うし、どうせこのままじゃ何も変わらないし、とぐるぐる考えた結果、お酒の力も相まって、わたしは震える指で「久しぶりー!」と文字を打ち込んで送信した。

喉がカラカラになるほど緊張しながら返事を待っていると、当時1日に1レスあれば良い方だったのが嘘みたいに、30分後には返信アリ。

その後トントン拍子で会話が進み、深夜に向こうから「ご飯行こうよ」と送られてきたときには興奮で眠れなくなったことが記憶に新しい。

朝起きたときに元カレから返信が来ていること、誘ってくれたこと、ご飯に行けること、ノリノリで予定を詰めてくれていること、会えたわけでもないのにたったそれだけのこと全てが夢のようで、たまらなく幸せだった。

会う日に向けての食事制限や運動は全く苦では無かったし、少し良いパックを買ってスキンケアに力を入れることや、どの服を着るのか考える作業など、元カレが自分の生活に存在しているということだけでただの日常が見違えるように輝いた。

やっぱり彼は私の運命の人。そう信じて疑わなかった。


そしてあっという間に約束の前日がやってきた。念入りにボディスクラブをして、スキンケアにストレッチや筋トレも最後まで欠かさず布団に入る。

しかし心がソワソワしてなかなか眠りにつけず、緊張で寝れないなんて馬鹿みたいだと自分を笑ったが、このソワソワはただの楽しみだけから来るものじゃないことを自分は知っている。そしてそれに気付いたとき、唐突に付き合っていた当時のことがフラッシュバックした。

「あぁ、どうせ明日もドタキャンだろうな」

手にとって分かる、あまりにもリアルなその落胆と悲しみと焦燥が入り混じったようなマイナス感情がぶり返してきた途端に、明日が楽しみな気持ちよりも期待してはイケナイという自制が勝ち、皮肉にもぐっすり眠りにつくことができたのだった。


そして次の日、約束は守られた。

待ち合わせの場所に先についた彼から着信があり、姿を見るよりも先に電話越しの声を聞いた瞬間、嬉しさと愛おしさと信じられなさで涙が出そうになったが、グッと堪えて駆け足で彼の元へ向かった。絶対電話に出たわたしの声はスキップするみたいに弾んでいただろう。

そして、恋い焦がれた念願のその姿がわたしの視界に入ってきたその瞬間が、1ヶ月弱経った今でも写真のように脳裏に焼き付いている。

背格好、服装、雰囲気、声、仕草、その存在全てが昨年の3月から夢に見続けた元カレそのものだった。好きしかなかった。今までのことなんて全て許した。むしろ忘れた。

話し方、話題のチョイス、言葉尻、リアクション、話していても全てがやっぱり超絶圧倒的ナンバーワン。この人以上なんて絶対に存在しない。そう感じることしかできなかった。

一分一秒でも長く一緒にいたい気持ちが強すぎて、泊まりたいという彼の要望も一応嫌がる素振りを見せながらも受け入れた。

わたしの部屋に彼が存在していて、体温を分け合って眠り、朝起きたら隣に眠っている。何度も何度も夢見てきた光景が目の前に広がっている。人はあまりにも信じられないことが起こると反射的に涙が出るのだと知った。


一度会ってしまったら、想いは加速するに決まっている。再び彼女になりたいと、現実的に思うようになった。24時間ずっと彼のことを考えるようになった。

だけどそれは、同時に精神の安定を失うことでもあった。

一生懸命男性心理を勉強し、どんな言動や返信が脈アリなのかを必死に学び、彼からの返信のささいな言葉に一喜一憂する。

最初の数日はそれも恋愛の醍醐味だと楽しめた。でも元カレと離れていた半年間という短くは無い時間は、自分自身が思っていた以上に”当たり前の感覚”と”自分のための生活”を構築してくれていたことを思い知ることになったのだ。

次の予定が立っても、結局またドタキャンの可能性に怯える。交際当時の自分であれば、1度会えているしそれも仕方ないと思えていたはずだったが、何人かの男性と食事に行ったり友人と沢山遊んできた時間を積み重ねた今のわたしは、ドタキャンに常に怯える状態は普通じゃないと理解できるようになっていた。

加えて、交際当時はうだつが上がらなかった仕事でも今となってはそれなりに結果を残し、今後自分の好きなことで生きていくための決意も決めている。となると、些細な一喜一憂やドタキャンをされることはモチベーションにおいても時間の損失においてもリスクになる。

そして、年齢的に交際相手には否が応でも結婚を意識してしまう。同級生でも結婚した友人がどんどん増えてきた。ともすると、即席で習得した小手先のテクニックって意味あるのか?

あれ?このまま好きでいて大丈夫??

気付いたら復縁できるかできないかよりも、好きでいていいのかどうかを考えるようになっていた。

冷却期間が大切だと言われる所以は、相手の自分に対する悪いイメージをリセットする他に、自分自身の感覚を正すところにあるのだと今はとても強く感じる。むしろこれが一番大事。別れた後の冷静じゃない自分を冷却することにこそ意味がある。

もちろん感情は頭で制御できるものなんかじゃないので、好きだという気持ちを消すことなんかできやしないけれど、自分の中の大切なものの順位が変わっていることは起こりうるのだ。


そんなことを考えるようになっていたところ、やっぱり起きたのがドタキャンだった。

再会からから2度目の約束にして、仕事によるドタキャン。やっぱり彼の本質は変わらない。変えることももちろんできない。変えたいとも思わない。だってそれが彼だもん。

もう辞めよう。

好きというプラスの感情よりも、好きでいたらマズいというマイナスな感情が心を占めるようになった。

それからなにかを察したかのように、彼はリスケした日もドタキャンした。そして更にリスケした日もドタキャンした。そしてそれが今日だ。


周りのみんなは言う。「なんでもっとドタキャンについて問い詰めないの?」「理由をしっかり聞かないの?」と。そしてそう思うのがきっと通常なんだということも分かる。

でもわたしは、ここまでされても元カレを嫌いにはなれないのだ。むしろ好きだ。好きすぎてなんでも受け入れられてしまうのだ。理由なんて別になんだって良い。彼の行動に対してわたしが思うことは、【会えて嬉しい】か【会えなくて悲しい】の二択だ。それは理由によっては変わらない。ただの自分の感情なだけで、彼に対して怒りや恨みは一切感じない。

怖いでしょ?

だから辞めるんです。

だってわたしといたら、彼は悪者になっちゃうんだもん。わたしは全てを受け入れられちゃうから、彼を世間一般でいう正しい方向に導くことはできないんだもん。本当の幸せにはきっとしてあげられないんだもん。

しかもわたし自身にもリスクがあるなんて。

こんな破滅的なことある??

だからわたしは、世界一で一番彼の幸せを願いながら、これからどんなに時間がかかっても自分の中にある元カレを好きな、というか愛する気持ちを殺していきます。


さようなら。人生で一番大好きでした。

絶対に幸せになってね。

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