見出し画像

君の隣(終)隣にいたい人

翌日は撮影は無く、僕は母校の近くの公園に来ていた。
平日の昼の公園は赤ちゃんを連れたお母さんや、手を繋いで歩く年配のご夫婦でゆったりとした時間が流れていた。
高校の時はよく彰人と流風と3人でこの公園に来ていた。よく3人でアイスクリーム食べたっけ。
まだあのアイスクリーム屋さんはあるのかな。
公園の近くにある小さなアイスクリーム屋さんは水樹のお気に入りの場所だった。
濃厚なコーヒー味のアイスクリームがお気に入り。
自然と昔歩いた道を歩き出す。
銀杏並木をゆっくり歩いていると、突然携帯が鳴った。

彰人くん…

慌てて出ると、
「久しぶり。水樹元気だった?」
安心する彰人くんの声。
「……」
「水樹?」
「なんで…」
「え?」
「なんで、僕に何も言わずに行っちゃうんだよっ。」
「ごめん…なんか…タイミング無くて…」
「なんでだよ。僕達友達じゃなかったの?」
「俺は…友達に…なりたかった訳じゃない。」
急に涙が溢れてきた。
泣いているなんて気付かれたらまずい。
僕は慌てて電話を切った。
なんでだよ…僕は大切な友達だと思っていたのに。
切った途端に鳴り出す携帯。
どうやら彰人は話を終わらせる気はないらしい。
でも、この状態では出たくない。近くのベンチに座って足を抱えて涙が収まるのを待った。
何分泣いていただろう。
泣き疲れ僕は眠くなってきた。

「何で泣いてるの。」
後ろから声がしたと思ったら、フワッと彰人の香水の香りがして、抱きしめられた。
僕は泣き疲れて眠ってしまったんだろうか。
夢の中なら言いたい事全部言ってしまおう。
ゆっくり振り返る。
「彰人くん…」
「俺は水樹と友達になりたいんじゃない。恋人になりたいんだ。」
「え?」
びっくりして涙が止まってしまった。
「で、何で泣いてたの?」
「わからない…彰人くんがいなくて寂しかったし…流風とドラマ撮ってみたけど、彰人くんの時みたいにドキドキはしなかった…あと、フランスに行く話を僕だけ聞いてなくてショックだった…」
「うん。」
「たぶん、僕…彰人くんが好きみたい。」
言いたい事が全部言えた。
このまましばらく夢の中にいよう。
そっと目を閉じる。
数秒後唇に温かいものが触れた。
いい夢…
彰人くんの香りに包まれて僕は深い眠りについた。

「おはよう。水樹。」
「え?」
目が覚めるとベンチの上で彰人くんに抱きしめられていた。
まだ夢の中か…
「夢じゃないよ。俺はここにいる。」
「え…いつから…」
「ここに来てからずっとだよ。」
「だってフランスに3年いるかもって…」
「断った。」
「なんで…モデルで成功するの夢だったでしょ。」
「だって水樹と恋人になる方が俺にとっては価値があるから。」
「やっぱり夢だ…」
目を閉じる僕を見て彰人くんは吹き出した。
「だーかーらー。夢じゃないって。」
「だって…」
「それより、さっきのは水樹の本心だって思ってもいい?」
「え?」
僕は慌てて彰人くんから離れ、木の影に隠れた。
「な、なんのこと?」
「だからさっきの好きみたいってやつ」
しっかり覚えてるじゃん。

「え、あの…」
「水樹、俺と付き合って。」
「うん。」
「水樹、もうそろそろ木の影から出てきてくれる?」
「あ、うん。」
恐る恐る木の影から出てくると、ゆっくり彰人くんに引き寄せられた。
「やっと捕まえた。これからはずっと一緒にいような。」
僕はにっこり微笑んで、頷いた。

「まずはあのアイスクリーム屋さんでも行く?水樹はコーヒーだよな。」
「覚えていてくれたんだ。彰人くんはチョコミントだよね。」
「もちろん。」

 ………………………………………………………

「えー、どういう事?春翔さんひどいよー」
「水樹ごめんね。みんなに頼まれちゃって。」

 今僕は流風との撮影に来ている。
 このドラマは毎回前日に次にやるシーンの台本がもらえるシステムだと聞いていたんだけど…
「台本あるじゃん。」
「あはは。」
「それに相手役彰人くんだし。」
「だって水樹が悪いんだよ、自分の気持ちに気づかないから。だから俺達みんなで考えたんだ。」
 いつの間にか流風が隣に座っていた。
「でも良かったな。」
「流風ありがと。」
 流風の肩に頭を乗せながら話していると、急に誰かに引き離された。
「水樹はこっち。」
「わっ」
 突然流風から引き離され抱きしめられた。
「「「めんどくさっ」」」

…………………………………………………………

 真っ白く汚してはいけない美しい君。
 これからも俺は君を守り続ける。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?