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君の隣①僕の後ろを歩く君

一体僕は何を見せられているんだろう…
このテーブルにいる女性は皆向こうを見ている。
女性達の後頭部を見つめながらふと思った。
僕って見えてるんだろうか…

「彰人さんってモデルとアパレル会社を経営されてるんですよね。」
「背が高いんですね。座ってるとわからないわ。」
「私、彰人さんのショップの服よく買いに行くんです。デザインが上品ですよね。」
「うわー。顔小さいですね。」

何かの記者会見?
僕も彰人に質問したほうがいいのかな。
と訳の分からない事を考え、1人で苦笑する。

これで何度めだろう。こうやって婚活パーティーに参加しても、いつも彰人くんだけに注目が集まり、その場にいる男達は絶望する。

結局今日も彼女候補は見つからず、何故か彰人と帰っている。
「彰人くん、何でいつもついてくるの?」
「俺も恋人欲しいからだよ。」
「あそこの集団から選んだら良かったでしょ。」
「俺の理想じゃないんだよな。」
「どんな人探してるんですか…」
「可愛くて、でも芯が強くて…」
そう言いながらじっと僕を見つめ彰人くん。
ほんとこの人は何を考えているのかわからない。

彰人こと矢代彰人は28歳。高校の先輩で、大学も同じ、今やっているモデルグループのメンバーでもある。モデルをやりながらアパレル会社の社長でもあり、腹が立つほどモテる。

「彰人くんがくると僕が困るんだけど。」
「俺は水樹と一緒だと気が楽なんだよな。」
イケメンめ、にっこり笑っても許さないぞ。

僕は、早河水樹26歳。会員制のフラワーショップを経営している。
昔から花が好きで、花に関する仕事につきたくてフラワーショップに就職して勉強し、独立した。

週末はモデルグループcamelのメンバーとして普段の自分を隠して活動している。
かなりの人見知りの僕は女性と目が合わせられない。
緊張して会話が続かないのだ。
でもいつもの黒縁眼鏡をコンタクトに変えてメイクをしてカメラの前に立つと勇気が出る。
なので普段の僕を知る人はcamelのMIZUKIが同一人物だなんてこれっぽっちも思わないだろう。 
悩みはただ一つ、彼女ができない事だ。
中学高校と僕に声をかけてくれる女子が何人かいたものの、僕と少し話してしばらくすると僕から去っていった。
僕の話が面白くないからなのか、甘い言葉をかけられないからか…色々考えたが候補が多くて考えるのをやめた。
高校1年からずっと彰人くんと親友の流風が僕の近くにいるせいで僕に声をかける女の子は1人もいない。
彰人くんは大学に入っても何故か僕達と一緒に遊んでくれた。

「あー、彼女が欲しい…」
「また彰人くんにやられたか…お疲れ様。」
頭を撫でながら僕を慰めてくれるこの優しい人は小森千陽。
普段は弁護士事務所『courage』クレージュの代表で、週末は僕達のモデルグループのリーダーをしている27歳。
優しくて頼れる兄の様な人だ。
「千陽くん、いつも彰人くんが来るから僕は見えなくなっちゃって誰も気づいてくれないんだ。可哀想でしょ。」
「俺は一緒に行くと楽しいけど。」
「やだっ、僕1人で行きたい。」
「あーもう、貴方達、うるさいわよ。彰人くん、あれだけ言い寄られて何で決めないの?」
「好みのタイプじゃ無いし。」
「まあ、難しい男」
僕の目の前で彰人くんと話しているのは永太くん。
永太くんこと山口永太は27歳。美容室『cinq 』サンクのオーナー兼カリスマ美容師。普段はあの様にオネエ口調で話す。僕の姉的存在だ。

「流風、気晴らしに遊びに行こうよ。僕、休みに1人でいるのが嫌なんだ。」
僕の左隣にいた流風こと白石流風は僕と同じで26歳。高校と大学が同じ僕の親友。
今はパーソナルトレーニングジムを経営し、芸能人やモデルのスタイル管理をしている。そしてcamelのメンバーでもある。
「もちろんさ、あ、明後日久しぶりに遊びに行くか?」
「いいねー。ありがとう流風。やっぱり持つべきものは親友だな。」
「俺も行きたいなぁ。」
「え?彰人くんも来るの?」
「はぁ…まあ、いいよ。本当は彰人くんのせいじゃないもんね。ごめん。一緒に行く?」
「もちろん。」
「結局水樹は彰人くんに弱いんだよな。」
そう、何故か僕は彰人くんに弱い。

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