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君の隣②君の視線

そして、2日後の朝、待ち合わせの公園へ行くと、周りから少し浮いた長身の2人が木の下で待っていた。

「おはよう、水樹。」
「おはよう、流風、彰人くん。」
「2人で立ってるとすごく目立つよ。」
「そう?」
180センチと185センチに見下ろされ若干凹む。
僕だって175センチあるし、女の子の横にいると大きいんだけどな。
いや、もう考えないでおく。
「で、水樹はどこに行きたい?」
流風のSUVの助手席に乗せられ不意に聞かれた。
「え?ノープラン?」
「うん、水樹の憂さ晴らしでしょ。行きたいところに連れてくよ。」
「ほんと?ありがとう。うーん、そうだなぁ。まずは美術館。」
「了解。」
3日前から世界の花の絵画展が行われていたが、行きたくてもデート相手が見つからず行けないかと落ち込んでいたので心が弾んだ。
美術館は好きだ。
街中とは違って静かな時間が流れている。
画家の目を通して見た花はそれぞれ個性があり、僕は1作品ごとに時間をかけて楽しむ。
2人は高校の時からの付き合いだから僕の美術館好きも知っていて、流風は美術館内のカフェでコーヒーを飲み、彰人くんは黙って僕のうしろに立っている。

大型展示の前に来た時、
「水樹くん。」
「え?霧島くん?」
そこにいたのは、高校時代環境委員の部長をしていた霧島くんだった。
彼も花が好きでよく花壇に座って花の話したっけ。
「久しぶり、元気にしてた?」
「うん、花に関する仕事をしたくて、色々な場所で勉強して今会員制のフラワーショップをやっているよ。霧島くんは?」
「僕は花の卸メーカーに勤めているよ。品種の改良とかの研究部門にいるんだ。フラワーショップか、夢が叶ったんだね。おめでとう。今度遊びに行かせて。僕の名刺渡しておくね。」
「ごめん、僕名刺持ってきてなくて。フラワーショップMONOだよ。楽しみにしてるね。」
携帯を出して連絡先を交換した。
そういえば高校の時は花壇で話してただけだったな。
霧島くんに別れを告げて振り返ると彰人くんが一瞬怖い顔をしていた様に見えた。すぐにいつもの笑顔になったからわからなかったけど。
「彰人くん、どうしたの?」
「あ、いや、何でも無いよ。」
「そう?じゃ、次の展示見ていい?」
「どうぞ。」

また鑑賞を再開する。
視線を感じて振り向くと彰人くんの真剣そうな顔が一瞬見えて、また笑顔に変わった。
「彰人くん、大丈夫?元気ないけど、体調悪い?ごめんね、僕がゆっくり見てたから疲れた?」
「いや、大丈夫だよ。」
にっこり微笑む彰人くんを見て、やっぱりイケメンだなと感心した。
「ほんと、彰人くんはかっこいいね。もう今日は満足したから帰ろう。流風も待ってるし。」
「あ、そうだね。」

流風と合流し、車に乗り込むと今度は彰人くんがハンドルを握っていた。
「水樹、次はどこ行きたい?」
こんなふうにかっこよく言ってみたい。
そんな見本の様な笑顔だった。
「あ、うん、ちょっとお腹空いたかな。」
「和食、洋食、中華?」
「あ、和食。」
「了解。」
え、和食しか決まってないけど、と思いながら外の景色を眺めていた。
着いた場所は静かな山の麓。
「綺麗な料理だね。味も上品。景色も最高。」
「この前モデル仲間に連れてきてもらったんだ。この味と美しさは水樹の好みだろ?」
「彰人くん、本当に水樹に甘いよね。」
「ま、可愛いからね。」
「可愛いは嬉しくないっ。」
僕が頬を膨らませると、2人は耐えきれず笑い出した。
「ひどいよー、2人とも。」
その後も笑いが絶えず楽しい食事になった。
「2人は少し飲む?よければ僕が運転するよ。」
「それじゃ、みんなで飲もう。」
「え、」
「代行頼めばいいよ。俺達だけじゃ水樹が可哀想だろ。お前のための日なんだから。」
「ありがとう。」
とは言ったものの、僕はかなりの下戸だ。
「じゃ、少しだけ。でも僕…」
「アルコール薄めのカクテルだよな。」
「あ、うん。」
お酒を飲み始めて1時間経った頃、新しく作ってもらったカクテルを飲んですぐ、僕は何故か意識を失ってしまった。

「おはよう、水樹。」
「ん…?あ、おはよう…」
朝目が覚めると、横で彰人くんが微笑んでいた。
「僕、昨日お酒を飲んでで…」
「あのバイトには怒っておいたよ。普通の濃度のお酒を出すなんて許せない。」
あ、そういうことか。
「彰人くんが運んでくれたんだね。ありがとう。」
「お姫様抱っこしてやったぞ。」
「何でだよー。」

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