ある後日談のポストカード 〒1
(前作)https://note.com/ra_wa/n/n7ab8d4ecd2e0
遠く、遠く、寒いところへ。
もう、人を傷付けないところへ。
俺みたいな人間でも、置いてくれるところを探した。
絵が好きで、まとめサイトを運営できる程度のPCスキルがある。
その程度じゃ、30手前でろくな職歴のないやつがまともなとこに拾ってもらうのは難しい。
何より、迷走少年や、あのくたびれた男にもう会いたくない。木枯タクという人間を知らないところへ、逃げていく。
どう流れ着いたのか、良く分からないけれど。
いつの間にか、絵ハガキや絵本を作る小さな事務所に住み込みで働くことになった。
「やー、コガくん、29なんてまだまだ若い。都会っ子って感じだねえ。おっちゃん羨ましいよ。小遣いはそんな出せないけど、ご飯とかは遠慮せずもりもり食べな」
「ありがとう…ございます」
社長はヘラヘラした調子の良い人だ。
地元の金持ちの次男坊で、土地を貸してたらお金が入ってくる。でもそれだとつまらないので、道楽みたいな経営をしてるらしい。
「まー、親父と兄貴のおかげで気楽なもんだ。人様のことを考えず、のびのび好きに生きてられるよ」
人をバカにしたような生き方だと思ったけど。
俺も、似たようなものだったかもしれない。
赤字でも税金はかかるんですよ、と後で教えたら目を点にしていた。知らないうちにずっと経理のリョウさんとお抱えの税理士が処理してたようで、本当に良かった。
「あ、で、一つ注意。もう一人、同居人がいてね。おっちゃんはこの子大好きなんだけど、ちょっと繊細な子だから、仲良くしてあげて」
いわゆる、発達障がいというやつらしい。
「あぁ、そういう人好きですよ」
「よかったあ」
弱い人なら、仲良くなれそう。
なかなか、その考え方はすぐには治らない。
「おまえ、なんで、ないてんだ」
初対面で、いきなりそう言われた。
やたら話すのが遅い男だ。
少しだけ、桐貫橋であった人達に近いけど。
なんとなく、好きになれそうになかった。
「なんのことですか?伊織さん、でしたっけ。別に泣いては、いませんけど」
「おれ、こんなにないてるやつ、見たことない」
「だからなんなんだよ、タラズ。ほっといt」
ぶん殴られた。
「やっぱり、おまえ、きらいだ」
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