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ネズミになった夢を見たよ

 夢を見た。
 僕はガールフレンドとともに、サイケデリックな配色の建造物へと侵入する。狂っているのは配色だけではない。柱や梁がグニャグニャと湾曲し、ディズニーランドのトゥーンタウンを想起させる。
 先導する一匹のネズミ。僕はあの灰色の小動物をガールフレンドと認識している。それで僕自身もネズミに違いないと分かった。いったい、四足歩行のクオリアを手足に感じる。
 紫色のカベの廊下に四つのドアがある。干し肉の匂いに誘われてガールフレンドはキッチンへ向かう。
 僕は残り三つの部屋を偵察する。人間はいない。
 偵察を終えてキッチンへ。ガールフレンドは干し肉を貪っている。
 背後に気配を感じる。首筋の皮膚を刺すような、静電気に似た痛みが走る。振り向くと鷲鼻の老婆がいる。
 老婆は泣き叫ぶ。僕とガールフレンドは一目散に出口へと向かう。
 老婆の声を聞いて、長身の老爺が駆けてくる。僕には彼らの言葉が理解できない。ただ何かを話し合っているのが分かる。
 老爺はカッターナイフを手に僕らを追いかけてくる。
 ガールフレンドは梁に身を潜めてやり過ごす。僕はそれを見届けて囮になる。窓から庭へ飛び出そうとしたところで、尻尾を老爺に掴まれる。
 老爺と目が合う。強者による殺意とはこうも恐ろしいものか。僕は身じろぎする気力を失い、硬直する。
 老爺がカッターナイフの刃をカチカチと鳴らす。僕は気絶する。
 目覚めると人間になっている。夢を見ていた。
 冷汗でびしょびしょになったパジャマを脱ぎ、私服に着替える。
 勝手口から裏庭に出て、煙草に火をつける。網戸に虫の死骸が張りつき、渇き、枯葉のようになっている。
 ネズミだった時、世界はあまりに単純で快活だった。生の喜びと、死の恐怖のみが、天気雨のようにキラキラと乱反射して見えた。
 ツイッターを開く。「ネズミの方がマシかもしれない」とツイートしかけて、二枚屋根の隙間から空を見る。人間とはいかにも、曇天のような生きものだなあと思い、書きかけのツイートを消す。
 煙を吐く。ともかく、この薄暗い白濁のなかを生きていかねばならない。

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