見出し画像

【造本夜話①】文庫をリデザインする

既成の文庫本をリデザインする企画「The Paperback Art 」に参加しました。

昨年に続き二回目の開催、前回は澁澤龍彦『高丘親王航海記』(文春文庫)をカバーつきの上製本に、シュペルヴィエル『海に住む少女』(光文社古典新訳文庫)をフランス装に仕立てました。

高丘親王航海記(左)と海に住む少女(右)自装本
高丘親王航海記のカバーを外したところ

二回目の参加となる今回は杉浦日向子の「ニッポニア・ニッポン」(ちくま文庫)を和装本に仕立てようと思い立ちました。

カバーをはずした文庫と足継ぎ用の雁皮紙(右)

杉浦作品は大好きでひととおり読んでいます。一番好きな「合葬」にするか、「百日紅」にするか、楽しく迷った結果、「ニッポニア・ニッポン」に決めました。
富岡八幡宮裏の「馬風庵」に住みつく“先生”・旗本の末弟「若」・常時女装の「おかつ」の三人組がコミカルなやりとりを繰り広げる連作、村上周防守の不思議な家臣の話「鏡斎まいる」、「殺生」「夢幻法師」など、幕末〜明治を舞台にした短編集です。元本の南伸坊さんの装丁もとっても素敵なのですが(シンプルな構図と間延びしない太明朝の組み合わせが伸坊流)、これを和本にして、さらにその素材を洋風にしたらオモロイのではないか。そう考えました。

文庫のカバーをはずし、ノド(表紙と接着されている本文の根元)で切断して表紙と分離し、それを綴じればそのまま和本にはなるわけですが、どう考えたって開きにくいし綴じづらい。そこで足継ぎをしよう…と考えましたが、継ぎ足の素材を何にしようか、思案どころです。
和綴じは本文紙の脇側に穴を開けて糸でまとめて綴じるので、綴じた部分が支点となって開きます。足に使用する紙が固い・厚いものではひらきが悪くなってしまいます。
そして糸で綴じるため、ある程度の強度も必要です。半紙や障子紙のようなやわらかい薄手の紙では、穴の開いたところから破けたり裂けたりする可能性がある。
さらによくよく考えると、全ページに足継ぎをするということは、貼り合わせた部分が厚くなるのですね。今回ここをどうするか考えあぐね、いろいろ見えないところで策を講じました。

上の画像の右側に並ぶ短冊状の紙が足継ぎ用の紙です。結局今回は国内産の雁皮紙を使用しました。薄くて丈夫、平滑なのがポイントです。本文紙と3〜4ミリ重ね合わせ、デンプンのりで貼っていきます。重ね合わせる幅が狂うと、全体を重ねた時に端がガタガタしてしまうので注意です。しわにならないよう素早く、くっつきあわないよう、紙同士を重ね合わせず…など、意外と神経を使います。何日かに分けて作業しました。

本文・見返しを重ね下綴じをしたところ

足継ぎが終わったら見返しをつけて全体を揃え、綴じ穴を開けるために仮止めをします。上の画像の白い帯状のものが仮止め用の紙です。右端の真ん中あたり、右端から5ミリのところで下綴じをしています。
この下綴じの時に気づいたのが、「足継ぎ部分の紙が本文より薄いために段差が生じ、綴じた後の見栄えがアンバランス」問題です。
ウンウン唸った後、見返しと足の間に民芸紙を蛇腹にして「まくら」として仕込む、という技を発動しました。薄紙すぎても駄目なのだな…と学んだ瞬間です。
見返しはレース紙で民芸紙を挟んだものとしました。ここも洋風なんだか和風なんだかワカラン感じにしたかったのです。

裏表紙。絵柄は表から続いている

角裂にはファインペーパーのアストロブライトを使用しました。蛍光色にしたかったのです。表紙は新聞紙を意識して制作したという「タブロ」を使用。カラーレーザープリンタでイラストを印刷しました。
表紙は一般的な四ツ目綴じのように天地左右を折りこむかたちではなく、いわゆる「がんだれ」としました。紙の左右を内側にブックカバーのように折り込む加工です。

表表紙

綴じ穴を六つ開けましたが綴じ方は四ツ目綴じと同様です。綴じ糸には蛍光色を使おう、といろいろ探しました。表紙の紙色との兼ね合いで、蛍光イエローのDMC刺繍糸を3本どりで使用しました。
表紙のイラストは本編の杉浦さんの画風を真似て、「夢幻法師」の高橋阿伝をイメージして描きました。本編では哀しい目に遭っているので、その以前の姿を、ポップな処理と配色で彩りました。
わかりにくいのですが「Nipponia nippon」の題字と日本語の題字、作者名は色をずらして重ね、80'sな雰囲気を試みました。

表紙・見返しをひらいたところ

表紙に使ったタブロは連量65.5キロの紙です。丈夫で厚い紙、とは言い難い。たとうを作ろうか…ともチラと考えましたが、表紙が見えなくなるのは本意ではありません。そのままのかたちで出展とあいなりました。
足継ぎ部分についてはいろいろあったものの、怪我の功名、とてもひらきのよい本になりました。

手を離しても本文が綺麗に開く

和本の既製品、とは現在ではおおむね中が白い「和綴じノート」のことを指すわけですが、友禅紙や型染紙と絹糸の組み合わせが大半を占めているよなあ…と。もっといろんな素材で和本を作ったっていいじゃないか、そんな思いが常にあります。

過去の習作。名刺大の大きさ

課題としてはもっと平滑で美しい表紙ができなかったか?とか、やはり保存用のタトウなどを作るべきだったか、表紙の印刷も蛍光だったら…などいろいろ思うことはありますが、楽しい制作でした。
改装本にかぎらず、ホームページのギャラリーにこれまでの作品画像がいろいろあります。ご興味ありましたらぜひのぞいてみてください。↓


よろしければサポートお願いします!