会計士はAIより無形資産を恐れるべき:『会計の再生』を読んで

「AIによって経理マン・会計士は不要になる」
なんて話は皆さん100回くらい聞いているかと思います。

元ネタの論文はこちら。最後のAppendixに職業別のAIによる代替可能性のランキングがあります。
https://www.oxfordmartin.ox.ac.uk/downloads/academic/The_Future_of_Employment.pdf

Accountants and Auditorsは94%
Bookkeeping, Accounting, and Auditing Clerksは98%
で代替されてしまうとか。

これに対して、
「いや、そんな簡単に代替できるわけがない」
「むしろ単純業務はお任せして高度な分析をしよう」
なんて会計業界側の反応も様々です。
実際に代替されるのか、代替されたとして会計業界はどうなるのか、全く分かりません。

ただ、去年出版された『会計の再生』を読むと、AIなんてどうでも良くなりました。

代替される/されない以前に、

現在の会計数値には意味がなくなってきていると言うのです。

※『会計の再生』は邦題で、原題はズバリ
"The End of Accounting and The Path Forward for Investors and Managers"
会計の終わり!です。
ちなみに監訳者の伊藤邦雄先生曰く、「あまりに希望がない題名だから変えた」とのことでした笑

詳しくはぜひ読んでいただければと思うのですが、以下が簡単なまとめ。

・企業評価(時価総額)に与える会計数値の影響は下がり続けている
※この画像のグラフでは稼得利益の寄与を見ていますが、売上高・売上原価・販管費・純利益・総資産・総負債で見ても結果は同じ。


・仮に利益(加えてキャッシュフローも)を完璧に予測して投資できたとしても、その投資リターンは下がり続けている
※こちらでは1989年以降、
「1年後に公表される当期の利益/キャッシュフロー成績を予測できたとして、好業績の会社の株式を買い、低業績の会社の株式は空売りしたらどうなるか?」
を検証しています。
タイムマシンで過去に戻って投資するみたいな話なので、当然一貫して儲けているのですが、そのリターンは徐々に下がってきています。


理由:無形資産を捉えていないから

つまり、今や会社は決算数値で評価されなくなっている。
じゃあ何でこんな変化が起きているの?その代わりに、投資家は何を見ているの?

その答えとして、本書は3つの要因を指摘します。

(1)無形資産が企業価値の源泉となってきている
(2)会計における見積もり要素の増大
(3)簿外事象・取引のないビジネス事象が企業価値を左右している

(2)は良く言われることでもあるので、ここでは(1)と(3)に注目。

(1)については、
ブランド、特許、効率的なビジネスプロセスなどの無形資産が企業価値を左右する時代になってきた一方、現状の会計は無形資産を適切に捉えられていないと指摘します。

111ページ:
(自社のブランドはBSに載らず、買収したブランドはBSに載るような)財務諸表上の無形資産に関するこのばかげた会計処理は、貸借対象表と損益計算書の両方にかなり複雑に悪影響を与え、投資家を非常に混乱させている。無形資産集約的な事業の資産価値と株主資本価値はかなり過小評価されるが、その企業の収益性指標(ROE, ROA)はしばしば過大評価され、他方で無形資産が全額費用処理されるがために、無形資産への投資増加に伴い企業の利益は消える。無形資産に関するこの時代遅れの、産業革命時代のような会計処理によって、財務報告のあらゆる面が悪影響を受けている。

また、米国において2000年頃から無形資産投資が有形資産投資を上回り、その差が徐々に開いていることを紹介しています。
つまり、
無形資産こそが企業価値を決める
→でも会計は無形資産を捉えていない
→だから企業価値と会計は関係が無くなってきた
という流れはどんどん進んでいるということ。


(3)については、下記のような指摘をしています。

113ページ:
(会計は取引を記録するが)取引のないビジネス事象も、ますます企業価値に影響するようになっている。たとえば、開発中の医薬品あるいはソフトウェア製品や新戦略、環境事故、新規契約の調印もしくは契約破棄、企業の戦略転換(リストラ、新規製品・サービスの立ち上げ)、あるいは企業に影響する新しい規制である。

この指摘は(1)無形資産の指摘に含めて説明することも可能だと思います。

取引のないビジネス事象=企業の持っている無形資産の価値が変わる事象

と(おおよそは)言い換えられるためです。

たとえば医薬品会社の株価を見ても、決算数値より新薬の実験結果によって評価されていることは明らか。

「新薬プロジェクト」という無形資産によって会社は評価
→実験失敗という取引のないビジネス事象により無形資産価値が低下
→会社の評価が低下=株価下落
と整理できるかと。

無形資産を考える良書
"Capitalism without Capital"が全く翻訳されない

じゃあ会計はどうすれば良いのか?
『会計の再生』では「戦略的資源・帰結報告書」という報告書が提案されています。
それがどういうものかはぜひ一読を。

で、ここでもう1冊紹介したい本が。
"Capitalism Without Capital: The Rise of the Intangible Economy"

2017年に出版された本ですが、こちらは無形資産についての一般ビジネス書。
会計目線に限らず、無形資産と有形資産の違いを考察し、有形資産主体の企業・社会が無形資産主体に変わる過程で何が起きているか・何が起こるかを検討しています。

フィナンシャルタイムスに2017年Best Booksの1つに選ばれたこともあり、きっと翻訳が出るんじゃないかと待っていて既に1年半。まだ出なさそうです・・・

もう待っていられない。自分で紹介してやろう!

というわけで、(著作権に気を付けながら)次回から内容を紹介していこうと思います。

(続く)


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?