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天才

 ぼくの彼女は小学生のころから小説を書いていたらしい。それも、授業中にノート3ページ分は書いていたとのこと。昔は二次創作をpixivであげていたらしいが、いまはどこにも発表していない。しかし、夢の中で小説のアイデアが浮かんで、それをスマホにメモしている。二次創作ものはぼくは門外漢だが、読ませてもらったら贔屓目なしに面白かった。読んでいて恥ずかしくなることもなく(二次創作やライト文芸だとままあること)、素直に小説の世界観に浸れた。さらに一人称と三人称、男性と女性、文体など、作品に合わせて使いこなしている。

 ぼくは半ば無理やり「小説家になろう」のアカウントを作らせて、そこにすでにできている短編をアップさせた。そして小説をまた書くように説得した。すると彼女も書くことは嫌いなわけではなく、むしろやる気になってくれて、長編を書くと言ってくれた。

 それはぼくにとっても嬉しいことなのだが、同時に悔しかった。才能の差をまざまざと見せつけられた。「なろう」に最初にアップした短編は、その場で書いたものだ。ぼくだったら1時間はかかるであろう文量を、ものの5分ほどで書き上げた。しかも面白い。

 彼女は天才だと思う。それは昔から書き続けた努力の結晶なのかもしれないが、ぼくからすれば天才だ。夢に小説のアイデアが浮かぶことなんて、ぼくにはない。いろんな本を読んだり、音楽を聴いたりして、どうにかこうにか絞り出している。しかも遅筆だし、登場する女性の描写は自分でもわかるほどヘタクソだ。

 書き続けていればいつかは実がなると思っていた。しかし、作家になるべきはぼくではなく彼女なのではないか。そんな思いがした。正直、筆を折りたくなるほどの衝撃だった。

 でもきっと、野球が好きなオッサンが草野球をやるように、ぼくは小説をちまちまと書き続けるだろう。一縷の希望を抱いて公募に送るだろう。

 だって、書くのが好きなんだからしょうがない。

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