ワナビがワナビに捧ぐある闘いについて
編「読んだよ、まあ、久しぶりにしちゃ書けてるほうなんじゃないかな」
僕「ありがとうございます、じゃあこれで新人賞m」
編「甘ったれるなぁ!!!!お前、本当に勉強してんのか?なんだこのラストは!『ヒロインが結ばれた幸せで飛び降り自殺する』!?聞いたことねぇよ!そんなラブコメ!!馬鹿か?お前馬鹿なのか!?」
僕「ラブコメだって言ったって、オリジナリティを出さなきゃ!だからこそなんですよ!敢えて!なんですよ!」
編「何が敢えて、だ!お前、こんな乱暴な作品で『カフカ的なサムシングを~』なんてのたまうつもりじゃねぇだろうな!もし、万が一そうだとしても、絶対に言うなよ!言ったら……殺すぞ!?」
僕「そんなくだらないことは言わないですよ!でもいい加減ハッピーエンドは食傷気味なんですよ、手垢が付きまくってるんですよ!だから、僕はそれにアンチテーゼをですね――」
編「うるせぇ!!なにがアンチテーゼだ!ハッピーエンドでいいんだよ、余計な裏切りなんて要らないんだよ!文庫の帯に『最後の1ページで皆騙される!』なんて書かれるのなんてそんなもん縄文時代にとっくに滅びてるんだよ!!いいか?縄・文・時・代に滅びてるんだよ!そんなんで売り上げ伸ばそうたって、読者は馬鹿じゃねぇ、アレか?お前、ヴィレヴァンに置いてもらえれればそれでいい奴か?いるんだよなー、オリジナリティとかアイデンティティとか、そういうBC時代から言われ続けてる今じゃ日本で天皇制を批判するくらいに危ない思考に陥る奴!まさかお前、そっち側だったのか!?」
僕「誰が前世紀時代の人間ですか!僕はねぇ、これでもプライドを持って書いてるんですよ!それを適当な言葉で揶揄されたくないですね!だいたい、あなたたちがそうやって保守的に過ぎるから、本が売れないんじゃないですか!もっとチャレンジしないと!そういう意味も込めて僕は書いたんです!」
編「あのなぁ、そういうのはもっと『小説が書けるようになってから』言うもんだぜ?なんだこれは、『ヒロインが結ばれた幸せで飛び降り自殺する』?ふっざけんな!こんなの世に出して誰が幸せになるんだよ!!いいか?いまの日本人は疲れてる、たまの読書のひとときに裏切りなんて要らないんだよ、裏切られたい奴はミステリを読むからこれは立ち入っちゃいけねぇ……ミステリにはミステリの美学があるからな、で、だ。お前のこれはミステリでもなけりゃエンタメでもねぇ、挙句の果てに純文学でもねぇというなんとも宙ぶらりんな話だ、そんな中途半端な奴が槍玉に挙げる『アンチテーゼ』に誰が手を挙げる?起きねぇんだよ、お前の望むシュプレヒコールは、死んだじいちゃんに誓ってもいい、絶対に起きねぇ」
僕「だからって僕に当たり障りのない、適当な小説を書けっていうんですか!?それじゃ僕の矜持に関わってくる!――」
編「何が矜持だ!そんなもん、10万部売ってからほざけ!当たり障りのないって言ったけどな、お前、それがいま望まれてることなんだよ、いいか、これは別に悪いことじゃないんだ、どんなジャンルでも様式美がある……それに則ってまずは書け、いいから書け、黙って書け、奇をてらおうとするな、素直に書け。そこで結果を出してからなんだよ、こういうクソみてぇな小説が書けるようになるのはな……」
僕「じゃあ何ですか、僕の書く小説はクソだっていうんですか!?」
編「話聞いてたか? ク ソ 以 下 なんだよ、それが問題なんだよ。最初に『書けてる』って言ったのがマズかったかな……あれは久しぶりに書いた『お前にしては』、っていうマクラがつくんだよ、それを都合のいいように解釈しやがって……想像力だけは一人前か」
僕「だっ、誰が妄想族ですか!作家なんてのは『自分がこの世で一番面白い』って思わなきゃやってられんのですよ!これくらいの自信はあって当然だと思いますけどね!」
編「わかった、わかったよ、でもいいか、とりあえずこの話はボツだ。ここをこうすれば、って話じゃねぇ、ボツだ。お前の欺瞞に満ちた自己主張がプンプンして吐きそうだ。こんなんで新人賞穫れると思うなよ?自信も大切だが謙虚さと素直さも同じように大事なんだ、それともっと小説を読め、映画を観ろ、音楽を聴け、外に出ろ、いまのお前には何もかもが足りてない!……話は終わりだ」
僕「……っ!!こんなに言われたの、大学のサークル以来だ!!」
編「それはお前が成長してねぇ証拠じゃねぇか!!」
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