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ヘルスケア領域でのGo-To-Marketを考える

Vertical SaaSのGo-To-Marketでは、顧客の規模によってマーケットを切り分けてそれぞれに適したセールスチャネルを使うことが一般的です。小規模の顧客にはProduct-led Growth、中規模の顧客にはSales-led Growth、大規模の顧客にはLand&Expandのアプローチが向いていると言われています。Horizontal SaaSとくらべて業種でセグメントを切り分ける必要もなく、よりシンプルです。

一方で、ヘルスケアの領域で製薬企業を顧客とした事業の場合、潜在顧客は多くても100社程度です。ほぼ全てが売上100億円以上の大企業です。様々なアプローチを使い分けるというよりも、大企業に対するLand&Expandをいかに洗練させるかが重要です。

本記事では、製薬企業を顧客としたヘルスケア事業を進める際のGo-To-Marketについて考察していきます。


疾患領域 x 企業の2軸でLand&Expandを考える

Land&Expandの順番の通り、どこにLandするかをまず考えます。どの部署の方と接点を持ち、どのお財布から費用をいただくかを決めます。ざっと組織図を書いて、キーパーソンを特定して、という動きは大企業向けの営業アカウントプランの定番なので、ご存じの方も多いでしょう。どのお財布から費用をいただくかは工夫のしどころが多いので、また別の記事で触れます。

次に自社のプロダクトをどのようにExpandさせるか解像度を上げていきます。企業内の他の疾患領域に広げるよりは、他の企業の同じ疾患領域をターゲットにすることが多い印象です。同じ疾患領域で同じアンメットニーズを対象として顧客を広げていった方が、小さくスコープを絞ったプロダクトづくりにもつながるはずです。同じ職種、同じ疾患領域で他社に転職する方も多く、口コミでの広がりなども期待できるでしょう。もちろん、研究開発からセールス&マーケティングのどのバリューチェーンを狙うかにより、プロダクトづくりの方向性は変わってきます。

製薬企業内での組織のイメージ

疾患領域のアンメットニーズを理解するためには、顧客である製薬企業の担当者へのヒアリングだけでは足りないことも多いです。その領域の医師や看護師や患者さんなどにもヒアリングをしたり、医学論文を読んだりする必要も出てくるかもしれません。ここが、ヘルスケア以外の領域から事業に新規参入する難しさの一つなのでしょう。

第一想起を取りに行くならニッチな領域から

前のセクションでは、疾患領域を切り口にサービスを提供し(Land)、その後に疾患領域に軸をおきつつ企業横断でプロダクトを広げる(Expand)という流れをお話しました。次は、どこにLandするか、どのように最初にターゲットする疾患領域を決めるのか、触れていきます。

新規事業の鉄則でよく言われていることですが、最初にターゲットすべきは市場の大きなところよりも、差し迫ったアンメットニーズがある領域です。製薬企業のどの部門にアプローチするかにより様々ですが、例えば、このぐらいニッチで絞ったアイデアから市場に入っている例もあります。

  • 男性乳がんのような希少疾患で、治験に入ってくれる患者を見つけるのが非常に困難な場面で、プラセボ群の設定なく治験を実施できるようにReal World Dataを提供したFlatiron Health社の事例

  • 統合失調症の患者さんが本当にお薬を飲んでいるのかトラッキングするために、チップを埋め込んだ錠剤を開発したプロテウス・デジタル・ヘルス社の事例(残念ながら既に経営破綻して大塚製薬に買収されました)

カテゴリーリーダーになり領域を広げる

ニッチな領域で第一想起をとることができれば、それをテコにプロダクトを展開するカテゴリーをExpandしていきます。その際よくぶつかる3つの壁があります。

  1. 企業の壁:1社との取り組みがうまくいっても他社に広げられない

  2. 疾患領域の壁:ある領域でうまくいっても他の疾患領域に広げられない

  3. プロダクトの壁:TAMを大きくするために次のプロダクトを立ち上げられない

企業の壁を超えるには、営業のアクションを積み重ねるしかありません。一社でも熱烈に価値を感じてくれている顧客が見つかっているなら、プロダクトの大筋の狙いは間違っていないはずです。伝えるべきメッセージやプロダクト価値を細かくピボットしながら、新しい取り組みに対してパッションをもって協力してくれる担当者と出会えるまでやり切る覚悟が必要です。その領域でシェア8割をこえるようなカテゴリーリーダーになれれば営業コストも抑えられ、違った戦い方ができるようになります。

疾患領域の壁を超えるには、一番はじめに取り組むアンメットニーズの定義と、Problem Soluton Fitの見極めが重要です。同じアンメットニーズが異なる疾患領域でうまれていることを見つけたうえで、1つ目のプロダクトを作り込めることが理想です。一方で、疾患領域を横断して解決できるソリューションを見つけることは難しい。プロダクトとしては、あえて一つの疾患領域に閉じたものとし、別のプロダクトを立ち上げることでマーケットを広げるアプローチも検討の余地があります。

シングルプロダクトからマルチプロダクト化を進める際には、何を競争優位性の源泉とするかの設計が必要です。統合されたユーザーデータなのか、ユーザーに働きかけるアルゴリズムなのか、UI/UXなのか、プロダクトの開発効率なのか。もう少し語りたいところですが、これはマルチプロダクト戦略で多く語られているところですので、別の機会に深堀りしてみることにします。

おわりに

ヘルスケア領域ならではのVertical SaaS事業の難しさ、面白さが少しでも伝わったのであれば幸いです。MICINでは治験というニッチな領域でVertical SaaSを展開しています。面白そうだな、と感じてくださった方は、気軽に下記リンクを覗いてみてください。

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