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パートナービジネスにおける手数料設計ガイド(第2部)

皆さん、こんばんは。
パートナーセールスの葛西です。

前回の記事では、手数料相場や手数料の種類、手数料設計において考慮すべき要素について書かせていただきました。

今回はその続編として、具体的に「パートナー企業にどこまで業務を委託すべきか」と「手数料設計における適切なモデル選定」について掘り下げていきます。

パートナー企業にどこまでの業務を任せるべきか

パートナー企業にどの範囲まで業務を任せるべきかは、彼らの強みとリソース、自社プロダクトの提案難易度を鑑みて検討することが重要です。

ただ、基本的な考え方として、パートナー側にお任せする業務の範囲が広がるにつれて手数料も適切に調整し、パートナーのモチベーションを維持するようにしましょう。

ちなみに、100社以上のSaaS企業のパートナーセールスの方とお話をさせていただいた中で、パートナー企業の基本的な役割としては下記の2パターンに置いているケースが大半でした。

  • 商材を提案する顧客を紹介してもらうところまで

  • パートナーが直接顧客へ商材を販売してもらうところまで(カスタマーサクセス業務までは対応しない)

以下に、パートナー企業にどこまでの業務を任せるべきかを検討する上で、考慮すべきポイントを記載します。

1.自社プロダクトの提案難易度が高い場合

パートナー側でその商材を売り切ることが難しく、自社の営業担当の同席が必須となるケースが多いです。

この場合は、パートナーの役割として「顧客を紹介する」というところまでを任せる紹介代理店モデルで契約するのが有効です。

1社紹介につき手数料を支払う紹介課金型のモデル、または紹介した企業が受注した際に手数料を支払うモデル(取次モデル)にて展開するのが良いでしょう。

その後、パートナー側の育成度合いに応じて、販売代理店モデルや卸モデル(再販)に変更していく(ランクアップしていく)のが良いかと思います。

2.パートナー側が競合商材を売り慣れている、または当該商材の業界専門知識を持っている場合

パートナー側が競合商材を売り慣れている、販売実績が上がっている場合は、パートナーに任せる役割として販売するところまでお任せする販売代理店モデルで最初から展開することも検討しましょう。

基本的にはパートナー側の営業マンは売り慣れている商材であれば誰にも邪魔をされずに自分で売り切りたいと考えますので、下手に邪魔をせずパートナー側に任せた方が双方にとってメリットが大きいです。

ただし、販売実績が上がっているのかの確認はもちろんですが、販売実績の中身として自社の営業担当のみで売り切って受注した件数は何割かも必ず確認するようにしましょう。

確認した結果、もし自社の営業担当のみで売り切って受注した件数の割合が低いようであれば、まずは紹介代理店モデルからスタートすることをお勧めします。

また、パートナー側が当該商材の業界専門知識を持っていたとしても、注意が必要なケースがあります。

例えばですが、広い括りで同じHR(採用)の業界であっても、「求人広告」と「HR Tech SaaS」は完全に別物です。

そのため上述のように広い括りで同じ業界であり、業界の知識は持っていたとしても商材特性が大きく異なる場合は紹介代理店モデルからスタートした方が無難でしょう。

3.自社プロダクトの運用経験、または競合プロダクトの運用経験が既にある場合

パートナー側が自社プロダクトの運用経験、または競合プロダクトの運用経験が既に豊富にある場合は、パートナー側にカスタマーサクセス業務まで任せることを検討しても良いでしょう。

ただし、プロダクトの理解度チェックテストやカスタマーサクセス業務の研修などの受講は必須とすべきです。

※パートナー契約の種類については、以前書いた下記の2記事をご参照ください。


最初からパートナーランクを設定するべきか?

パートナービジネスの初期段階では複雑なランク制度や複数のマージンプランを導入するのは避け、シンプルなマージンプランを1つだけ用意することをお勧めします。

理由としては大きく下記の2点。

  1. 立ち上げ初期段階から複数のマージンプランを用意すると管理が煩雑になる

  2. 立ち上げ初期段階からパートナーランクを設定してしまうと、パートナーランクの見直しがしづらくなる

もし伸ばしたいパートナーさんのためにどうしてもマージンに色をつけたいという場合は、別途覚書を締結してキャンペーンという形で極一部のパートナーさんのみでまずはトライされることをお勧めします。

詳細については、以前書いた「パートナー制度において、複数マージンプランを最初から用意すべきか?」のnoteに記載されておりますので、こちらをご参照ください。

ストック型 vs ショット型マージンモデルの選び方

手数料設計の際には、パートナー企業が属する組織の文化やビジネスモデルに合わせた報酬体系を選ぶことが重要です。

組織の文化としてトップダウン型の組織では、ストック型のマージンモデルが有効です。

経営陣や事業部長クラスの目線に立つと、単年度のショット型の収益よりも長期的に安定的な収益が見込めるストック型のマージンの方を望まれるからです。

一方で、トップダウンがあまり効かずボトムアップ型の組織体制の場合には、ショット型マージンモデルが有効です。

ボトムアップ型の組織体制の場合、営業マンは毎月の予算を追っているため、ストック型で毎月または毎年少額のマージンが入ってくるよりは、ショット型で大きな金額が1回でマージンとして入ってきた方が月の予算達成に貢献できるためです。

また、パートナーの新規・既存の売上比率によってもストック型が有効か、それともショット型が有効かは変わってきます。

既存顧客からの売上比率が高いパートナー企業には、ストック型のマージンモデルの方が有効です。

理由としては、既存の限られた顧客への提案を繰り返すことで収益を上げているため、単年のみで売上が立つよりも定期的に売上が立つモデルの方が好まれるためです。

一方、新規顧客からの売上比率が高いパートナー企業には、ショット型マージンモデルが有効です。

新規開拓がメインとなる場合、中長期的に安定的に売上が立つよりも短期的な成果を優先されるためです。

上述のように、パートナーへの報酬体系については各パートナーごとの組織文化や新規対既存の売上比率の割合を考慮して設計するようにしましょう。

パートナー側へ目標予算(ノルマ)は課すべきか

パートナー企業に目標予算(ノルマ)を課すことは、パートナー企業を動かすための1つの手段です。

特に、一部のパートナーにのみ特別なマージンモデルを提供する際には、提供する代わりの条件として目標予算(ノルマ)を設定して一定の成果を求めるべきでしょう。

日本のパートナービジネスの市場におけるベンダー(メーカー)とパートナー(代理店)の力関係は、基本的には「ベンダー<パートナー」という力関係です。

そのため、特別なマージンモデルを展開する初期の段階で目標予算(ノルマ)が設定できないと、その後もずるずると目標予算(ノルマ)が設定できないまま進んでしまうリスクが高いためです。

しかし一方で、目標予算(ノルマ)設定は慎重に行う必要がある側面もあります。

パートナー数を絞る戦略を取る場合はノルマ設定をしても良いかと思いますが、パートナー数を伸ばす戦略を取る場合はノルマを設定してしまうことでパートナー契約の難易度が上がるため、パートナー契約数が伸びないリスクがあるためです。

パートナー数を伸ばす戦略を取られる場合は、基本的には目標予算(ノルマ)設定を行わずに契約数を伸ばしつつ、実績を残したパートナーやトップパートナーに育成したいパートナー等に対して特別なマージンモデルを提供する際に目標予算(ノルマ)設定をするというのが良いかと考えています。

第2部のまとめ

パートナービジネスにおける手数料設計は、成功の鍵を握る重要な要素です。

まず、パートナー企業にどこまで業務を委託するかを慎重に検討し、その範囲に応じた適切な手数料を設定することが重要です。

次にパートナービジネスの初期段階では、シンプルなマージンプランを1つ設定し、ビジネスが安定してからランク制度を導入することが、パートナーシップを成功に導く最良の方法です。

さらに報酬モデルの選択では、組織文化やビジネスモデルに基づいてストック型またはショット型のマージンモデルを選定する必要があります。

最後に、トップパートナー候補のパートナー企業や実績を残しているパートナー企業をさらに育成するために、目標予算(ノルマ)設定が効果的です。

これは、トップパートナー候補をトップパートナーへ育成するための1つの手段となり、結果的に両社にとっての利益を最大化します。

これらのポイントを押さえることで、パートナービジネスにおいて持続的で強固な関係を築き、ビジネス全体の成長を促進することができます。

他にも非常に細かなポイントで手数料設計にあたって検討すべき事項はあるかもしれませんが、第1部・第2部に書かせていただいた内容を網羅すれば適切な手数料が設計できますので、是非ご参考にしていただければと考えております。


最後までお読みいただけた皆さん、ありがとうございました!それではまた次回の更新で!


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