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股関節屈曲時の軟部組織による制限因子

骨盤大腿リズムは、股関節の屈曲に伴って骨盤の後傾が起こることを言います。


いわゆる肩甲上腕リズムのようなものです。肩甲上腕リズムは2:1の関係、つまり、肩関節を180度外転させたとき、肩甲骨は60度、上腕骨は120度可動します。

このような現象が股関節にも存在しますが、骨盤と大腿骨が動く比率については一定の見解は見られず、性別によっても差が見られるという報告もあります。

さらに、股関節を屈曲させたとき骨盤だけでなく腰椎も後弯を起こします。

股関節屈曲は股関節のみの動きではなく、骨盤、腰椎などが動いて屈曲することができます。

吉尾らの研究によると、日本人の股関節屈曲角度は平均133度であることが分かりました。しかし、軟部組織を除去した新鮮遺体を用いて骨盤・大腿骨の屈曲角度を調べると平均93度でした。ただ、これは新鮮遺体を用いた場合の結果なので、人体では関節唇や筋肉、靱帯などの軟部組織が存在するため、実際には股関節実質の屈曲角度は70度ほどではないかと考えられています。

つまり、これらの結果から見かけ上の屈曲角度である133度と、股関節固有の屈曲角度である93度との差である40度には腰椎後弯および骨盤後傾角度を表していることが考えられます。ということは軟部組織の緊張は股関節の屈曲を制限することになります。

このような理由から股関節屈曲は骨盤・腰椎の動きを含んでいるということが分かると思います。

では、股関節を屈曲するときの制限因子はどのような組織になるのでしょうか?

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皮膚、関節包、靱帯、筋肉など様々あると思いますが、今回は筋肉へのアプローチについて説明していきます。

股関節に屈曲制限が存在するということは、股関節後面の筋肉の伸張制限が原因と考えられます。また、屈曲の作用と逆、つまり、股関節伸展作用を持つ筋肉が制限因子の一つとも考えられます。股関節の伸展作用を持つ筋肉は、

・ハムストリングス
・大殿筋
・小・中殿筋後部線維
・大内転筋
・梨状筋
・長内転筋
・短内転筋
・大腿方形筋
など


さらに、ある研究で人体解剖で股関節屈曲における股関節後方の筋を観察すると、

・梨状筋
・上・下双子筋
・内閉鎖筋
・大腿方形筋

これらの緊張が認められました。
これらの筋は外閉鎖筋を合わせて深層外旋筋群と言います。深層外旋筋を切離したあと股関節屈曲角度は増加しました。

以上のような理由から股関節伸展作用を持つ筋肉(大腿後面筋)、外旋筋は屈曲制限の因子になると考えられます。

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このような股関節屈曲制限について調べた報告があります。


佐藤らは股関節外旋筋群が股関節屈曲に及ぼす影響を検討することを目的に2つの研究を行いました。1つ目は股関節回旋角度の違いにより股関節屈曲角度は変化するのか。2つ目は新鮮遺体を用いて股関節後面筋を切離した後の股関節屈曲角度を計測しました。

その結果、実験1は股関節内旋角度が増加するとともに股関節屈曲角度が有意に減少することが分かりました。

その理由については、股関節内旋角度が増加することにより外旋筋群は伸張されます。単純に骨盤がニュートラルの位置にあり、股関節が内旋位であれば大転子は前方を向きます。外旋筋群は転子窩に停止するので伸張位になることは想像できるかと思います。

外旋筋群は伸張+股関節屈曲による伸張が加わるため、伸張+伸張ストレスがかかります。その結果股関節の屈曲角度が減少します。


実験2では梨状筋・内閉鎖筋を切離した後に股関節屈曲角度が最も増加しました。

梨状筋・内閉鎖筋は関節包に対する働きはないことから、外旋筋群の中でもこれらの筋肉は屈曲制限の大きな原因になると考えられました。

なお、表層に位置する大殿筋や関節包に付着する小殿筋(小殿筋切離時は関節包温存)は股関節屈曲角度の制限に大きくは関与しませんでした。



田中らは股関節屈曲角度と深層外旋筋の伸張率との関係について調べました。

献体を用いて解剖を行った結果、深層外旋筋は股関節屈曲の増加に伴いすべて伸張されました。特に伸張率が高かったのは梨状筋・上双子筋で最も高かったのは大腿方形筋であった。

大腿方形筋が最も高くなった要因は外旋筋の中でも最も遠位に位置しているので、股関節中心と筋の停止部との距離が長くなったので伸張率で言えば最も高くなったのではないかと考えられました。


後面の筋肉や外旋筋が股関節の屈曲制限であることはこれらのことから分かると思いますが、アウターによる制限よりもインナーによる緊張の制限が高いことが分かると思います。その中でも、特に梨状筋は屈曲の制限因子の可能性として非常に高いと思われます。

なので、臨床で股関節屈曲制限の方を担当した際にはハムストリングスや大殿筋だけでなく深層の筋にもアプローチしてみてはいかがでしょうか。

最後に、様々な文献でも書いてあったことですが、屈曲制限の組織は個人差が大きいと書かれていたので屈曲制限だからこれだ!というものはありませんね。


参考文献

・佐藤 吉尾:健常人における股関節外旋筋群が股関節屈曲に及ぼす影響

・田中 木村:股関節屈曲角度と股関節深層外旋筋群の伸張率との関係 ―肉眼解剖による股関節屈曲可動域制限因子の検討―

・林 熊谷:股関節拘縮の評価と運動療法

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