給与の電子マネー支払い解禁、「ペイロールカード」普及で銀行に逆風か

今年の春から給与の電子マネー支払いが解禁されるようです。電子マネーでの支払いは以前から話に上がっていたものの、全く意図が分かりませんでした。給与は安定資産である本物の日本円で支払ってもらえば結構だからです。それをわざわざ電子マネーにする必要はありません。突拍子な話題だったので軽く流していましたが、まさか実現するとは思ってませんでした。解禁を目前に控えたということで、簡単に調べてみました。

給与支払に使われる電子マネーは一般的に「ペイロールカード」と呼ばれているそうです。アメリカなどの諸外国ではすでに一般的のようです。給与支払者はペイロールカードに給与を送金します。ペイロールカードの残高は現金でも引き出せますし、物によってはそのままクレジットカードとして決済にも利用できます。

電子マネーによる給与支払いが解禁による恩恵を最大限に受けるのは外国人労働者とその雇用主のようです。その焦点は銀行口座です。日本で生まれ育つ日本人は当然のように銀行口座を持っています。しかし、外国人は銀行口座を作るのが難しいそうです。ひとつは言語の壁があります。確かに口座開設の手続きは日本人であっても説明を注意深く読みながらでなければ作れません。他にも滞在期間が短いと口座を作れない課題もあるようです。条件は銀行によって異なりますが、一般的には滞在期間が6ヶ月未満の場合に口座を作れないようです。働く側も短期間の滞在中のためだけに口座を作ろうという気にはならないでしょう。

あとは日雇い等の短時間アルバイトでも利点があるようです。日雇いであれば現金をその場で渡せば済みそうですが、その給与を現金として現場で管理するのは危険です。一方で現金を持ち歩くのは危ないからという理由で口座振込となれば、口座の紐付け作業という手間が生じますし、振込も後日となります。現金にせよ口座振込にせよ、極端な一長一短となります。この課題は電子マネー払いとすることで解決します。例えば電子マネーの送金システムを利用すれば、終業と共にアプリ経由で給与を渡せますし、現金を持ち歩く危険性もありません。

電子マネーでの給与支払の解禁は、銀行に強い逆風となりそうです。銀行はこれまでは給与支払口座を作らせることで利用者と利用残高を囲い込んできました。このビジネスモデルは少なくとも楔(くさび)が打ち込まれます。キャッシュレス決済普及の際の熾烈な囲い込み競争は記憶に新しいです。電子マネー業者がこの経験を生かしてペイロールカードの普及を初めた暁には、既にDXで遅れを取っているような弱小銀行の優位性は更に薄れます。

給与の電子マネー支払解禁によって、私たちの生活にどの程度の変化が生じるのかは想像しきれません。そもそも支払元となる事業者がどこまでここに食いつくかも分かりません。低賃金の外国人労働者を抱える企業にとっては魅力的でしょうが、多くを日本人で揃えている企業にとっては変える理由がありません。しかしながら、少なくとも金融業界に大小なりの波は起きそうです。これが生活にどう波及するのか興味深いです。

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