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EUの充電器の規格統一が愚かな理由

EU(欧州連合)がスマートフォンなどのモバイル端末の充電器の規格統一を決めました。

【ブリュッセル時事】欧州連合(EU)欧州議会は30日、欧州委員会に対し、スマートフォンなどのモバイル端末の充電器の規格をメーカーに統一させる新ルールを7月までに整備するよう求める決議を採択した。

消費者視点で見れば、一見して歓迎する出来事です。充電ケーブルの規格はいくつもあり、スマートフォンなどデジタル機器を買い換えるたびに充電器の整合性を気にしなければなりません。

規格統一が技術革新を阻害する

規格統一に反対しているアップルの主張は見逃してはなりません。それは規格統一が「技術革新を抑え込むものだ」という主張です。

私も統一すればいいと思っていましたが、このアップルの主張を読んで意見が変わりました。

具体的に何に統一されるのかは明らかにされていません。おそらくUSB TypeC(以下、タイプC)になるのではと思っています。仮にタイプCに決まったとしましょう。

タイプCはとても便利です。多くの電力を供給でき、ケーブルを通した通信も可能です。端末に挿す時に表裏を気にしなくて済むのも地味に嬉しい仕様です。とても完成された規格なので、タイプCが統一規格になるのは良いことだと思います。ただし、タイプCが歓迎されるのは今だけです。

ここで、アップルの主張を思い出します。今の技術であればタイプCは完成された技術です。しかし、将来を見据えた時はそうとも限りません。築かれた常識は、いつの時代でも技術革新によって覆されていきます。数年後にはより洗練された充電方法が発明されるかもしれません。

統一規格が立法機関の傘下になることで、規格の変更が難しくなってしまいます。これによって充電に関する技術革新への投資が滞ったり、技術革新が行われても使えない技術として葬られるかもしれません。それは消費者にとっても不幸なことです。

EUは規格統一で自らの首を締める

今回はEUの話なので、EUだけで規格が統一されたとします。製造事業者の立場で考えた時、EUだけが新しい規格の投入が出来ない状況になります。そうなると、アメリカ合衆国や日本や中華人民共和国やイギリスなど、EU以外の国から投入していくことになります。

EU以外の国々から革新された技術が導入されていいけば、規格統一をしたEUがその技術革新の恩恵を受けるのが後手になります。

例えばアップルはiPhoneやMacを通じて充電器の規格の変更を半ば強引に進めてきた背景があります。EU各国ではこの手法が使いにくくなります。そうなればアップルが最新の端末を投入するのはEU以外の国からとなると予想できます。EUでは技術革新の恩恵をうけたiPhoneやMacをすぐに手に入れられなくなると想像できます。

EUが技術革新の恩恵を受けるためには、統一規格を常に議論していかなければなりません。そのために、規格を決めるための組織を構成し、議論し、決定するという手順を繰り返す必要があります。統一規格の運用自体に相当なコストがかかります。

少し立ち止まって考えてみれば、今回のEUの決定はとても愚かな決定だと分かります。なぜアップルの主張が跳ね返されてしまったのか、不思議でなりません。それほどのコストを払って守りたかったものは何だったのでしょうか。

決まってしまったことなので、それは覆らないとします。願わくば、統一規格の変更が柔軟に行われるようになればと思います。そして、他の国がこれに追随しないのを願います。

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