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履歴書に性別欄は必要か?という議論について

ツイッターで様々な反応をいただいたのですが、言葉足らずなどで正確にお答えするのが難しいと考えました。この件に関する私の考えを全て書きだします。

経緯

発端は私が小野寺まさる元北海道議会議員へのリプライでした。小野寺氏が私のリプライに反応したことで多くの方に見ていただけた結果、私には反応しきれない程の返信をいただきました。

小野寺氏の最初のツイートは『「履歴書の性別欄廃止を」経産省に1万人分の署名提出』という記事を引用した『そのうち「男湯と女湯を無くせ」とか騒ぎ始めるんじゃなかろうか?余りに◯鹿過ぎる…』という内容です。

私はこの意見に違和感を覚えたので「自身の性別を明示するのを苦痛に思う人がいると聞いたことがあります。少なくとも採用の判断に性別は関係ないはずです。性的に区別が必要な銭湯と、本来性別は無関係な履歴書を同列にするのはいかがかと思います。」というリプライを送りました。

この私のリプライに対して小野寺氏はこのツイートを引用する形で「はて?」と反応されたところ、多くの方の目に触れられることになりました。

私のリプライに対して可能な限り返信をしていたのですが、平日の隙間時間で短文で返信するには表現力が足らず誤解を助長しかねない状況となりました。(この件だけでもう1本ほど記事が書けそうです。)

履歴書の性別欄

まず元々の記事に関して言及しようと思います。引用します。

心と体の性が一致しないトランスジェンダーの人たちが、就職活動で不利益を受けているとして、履歴書の性別欄の廃止を求めるおよそ1万人分の署名を、NPO法人が経済産業省に提出しました。

(中略)

心と体の性が一致しないトランスジェンダーの人たちは、就職活動の際に、履歴書に記載された性別と外見が異なっているとして、面接で差別的な発言をされたり内定を取り消されたりするケースがあるということです。

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200630/k10012489501000.html

トランスジェンダーとは生まれ持った身体的な性別と、自身の認識されている性別が一致しない状態です。性同一性障害という表現もありますが、トランスジェンダーは性同一性障害よりも広義だそうです。

トランスジェンダーの方々は自身の男女を明確にできないと聞きます。この方々に対して「男」「女」のいずれかに丸を付けるような選択肢を強いるのは失礼にあたります。

トランスジェンダーが認知されてから、男女を明確に選ばせる場面は減りました。例えばiOSアプリの審査において、性別を選ばせる際は「男」「女」だけの選択肢を用意するフォームはNGとされるようです。機会があったら見ていただきたいのですが、大抵は「男」「女」の他に「その他」や「伝えたくない」などの選択肢があります。あるいは性別の項目があったとしても必須項目となっていません。私はこれが西洋の現代の標準的な価値観だと認識しています。

一方で履歴書の一般的なフォーマットは「男」「女」だけの選択肢が用意されており、これが必須項目のような扱いとなっています。

トランスジェンダーを含むLGBTに該当する日本人は約3%から約10%程度と言われています。調査方法によってバラツキがあるので正確な数値は測れないようですが、他国の調査と比較しても少なくとも1〜3%はいると考えられます。

履歴書のフォーマットから男女の記入欄を削除ないし「その他」のような項目を追加するだけで、1〜3%の方々が苦慮すること無く就職活動ができます。残りの99〜97%は今まで通り男女を明確に名乗れば済む話です。

私は履歴書のフォーマットから性別欄を消すのは構わないと思います。

就職時に男女を明確にしておく必要性

日本では男女雇用機会均等法という法律があります。厚生労働省のパンフレットにはこの様にまとめられていました。

雇用管理の各ステージにおける性別を理由とする差別の禁止(第5条・第6条)
 募集・採用、配置(業務の配分及び権限の付与を含む)・昇進・降格・教育訓練、一定範囲の福利厚生、職種・雇用形態の変更、退職の勧奨・定年・解雇・労働契約の更新について、性別を理由とする差別を禁止しています。

私が「少なくとも採用の判断に性別は関係ないはず」と書いた根拠はこれです。本来は募集に於いて性別を知る必要はありません。

多くの方が私のこの書き方に反応されていたと思います。もちろん男女の区別が必要な職業はあります。それは理解していますが、短時間で短文の中に入れる能力がなかくて省略したために多くの反論をいただきました。

男女の区別が必要な職業として最も分かりやすいのは性風俗の世界です。女性が好きな男性に対して性的なサービスを提供する人を雇う時は女性であることが必須になります。

あるいは、プロスポーツの女性部門の選手の募集には身体的に男性である方は応募できないでしょう。他にも入浴や排泄の補助を伴う介護職も男女の区別は重要だという意見を頂いています。

職種意外の都合でも雇用主が性別を明確に知っておきたい場合はあると思います。返信いただいた中にもありましたが、設備や文化の問題です。

具体的な例は存じませんが、世の中には例えば男性用の便所しかなかったりといった設備に偏りがあるようです。泊まり込みでの業務が必要な場合に男性用の宿泊施設しか用意されていないという例もあるようです。

男女比が極端に偏ってしまっている現場でも男女の区別は気を遣うでしょう。例えば保育施設は女性の比率が多いと思います。そこに男性が応募をしてきて採用した時に、現場の秩序を上手く保てるかを気にするのは自然です。

どんなものでも例外は少なからずあります。しかし多くの職種や職場では採用時に性別は関係ないはずです。

性別での足切りは損

先に上げた身体に触れる等のような特殊な職種を除けば、履歴書の性別欄で足切りをするのは損だと私は考えています。それは職務的な能力と性別は基本的に関係ないと考えているからです。

ツイッターで頂いた例を利用します。例えば受付業務です。受付業務はたいていの場合は女性が担っています。雇用主も女性の華やかさを売りにしたいと考えていたとします。この場合は雇用主は女性で応募したいのですが、法的には「女性限定」とはできません。おそらく「女性が活躍している現場です」のような文言を添えて募集をするのでしょう。

この受付業務の現場において、トランスジェンダーを最初から遮断するのは損だと私は思っています。採用はある意味でギャンブルな側面があります。採ってみたら思ってたよりも良い人材だったり、逆に悪い人材だったりと様々です。少しでも優秀な人を採用する可能性を拡げておきたいのであれば、1%でも門は広めに開いた方が得です。

逆の立場で例えば体力が絶対条件となる職場もあると思います。その場合は雇用主は男性を欲しいと思うでしょう。しかし男性に負けず劣らず体力のある身体的女性もいます。体力のない男性もいます。男性は体力があるという偏見から履歴書性別欄に記載されている「男」のみを通していたら、良い人材を採用できる可能性を狭めてしまいます。

職場の雰囲気や就労条件などは、募集要項に概要を記載しつつ、面接にて具体的に相談すれば済む話です。

各社で様々な事情はあると思います。「性別で絶対に足切りするな」という極端な意見を申すつもりはありません。しかし大抵の場合は私は「足切りは損だ」と思っています。

女性は育児や出産で長期休暇が必要

女性は育児や出産で長期休暇が必要だから事前に知る必要があるという意見もいただきました。

女性でなくとも長期休暇が必要な場合もあります。男性であっても育児休暇は取得します。元々その予定がなくとも、産まれた後に病気を患わっていたと判明したりパートナーの精神状態が不安定で補助が必要な場合すらあると思います。

出産や育児の他にも、介護休が必要となる場合もあります。ご家族が高齢で急に介助が必要になる場合もあります。

女性であれば確実に育児や出産で長期休暇が必要になるとも限りません。中には女性であっても結婚や出産の意思がない方だって居ます。

いずれの場合も書面の単純な「男」「女」の2極で判断できるものではありません。この判断は面接やその後の契約作業において性別に限らず確認する項目だと考えています。

例えば若い企業など少数精鋭で事業を伸ばそうという場面で育児休暇の取得を予定している人が応募してきた場合、雇用主は性別に関係なく個人のライフステージと企業の成長ステージを照らし合わせた採用を考えざるをえないでしょう。

男湯・女湯の区別との違い

履歴書で「男」「女」を2極で選ばせるのと、男湯・女湯の区別は別次元だと思います。

銭湯や温泉で「男湯」「女湯」を区別するのは異性に裸を見られるのを苦痛に感じる方が大半だからだと理解しています。そして私の理解だと現代の銭湯は娯楽であり、就職活動は生活基盤です。

生活基盤である就職に不利だという悲痛な思いから履歴書の性別欄廃止を訴える記事に対して、たかだか娯楽である銭湯の男女区別を持ち出して「◯鹿だ」と発言されたのは如何かと思いました。

追伸として、これは返信を頂戴したなかで気付いたのですが、銭湯が生活基盤となっている方々も居ます。もし、小野寺さんがその方々を思って「◯鹿だ」と発言されたのであれば納得できます。しかし、そのような背景を考慮された趣旨のツイートとは思えませんでした。

トランスジェンダーに対する理解

NHKの記事の中で紹介されていたコメントが印象的でした。

記者会見に同席したトランスジェンダー当事者の佐藤悠祐さんは、「性別欄を記入せず履歴書を提出したところ、強制的に書かされたうえで、見た目と性別が異なることに対して根掘り葉掘り聞かれてつらい思いをした。早く履歴書の性別欄をなくしてほしい」と話していました。
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200630/k10012489501000.html

加えていくつか返信をいただいた中で、興味深い意見もいただきました。

私は性別も解らない人と同じトイレを使わなくてはいけない職場では働きたくありませんね。犯罪に巻き込まれそうで嫌です。隠したい方は隠せる職場を選んでください。
https://twitter.com/cfurufuru/status/1278912889802248193

日本はLGBT後進国と評されることがありますが、あまり実感がありませんでした。しかし実際に直接的にそのような意見を頂いたことで実感が湧いてきました。性別を示せない人を気持ち悪く思ったり信頼できないと決めつけるのも一つの尊重すべき意見だと思います。(私は共感できませんが。)

社会的なルールの制定や文化の形成は最大公約数を見つけていく作業だと思っています。トランスジェンダーを始めとしたLGBTへの理解を広めていき、最大公約数を大きくしていく必要がありそうです。

NHKで紹介された団体の主張は履歴書から性別欄を省くというただそれだけです。もちろん性別が必要な職種や現場もあるでしょう。性別欄を絶対禁止と訴えるつもりはありません。存続か禁止かのゼロイチではなく、「必要ない場合は求めない」など両者が納得できる落とし所を見つけられると良いと思います。場合によっては男女雇用機会均等法の見直しも必要かもしれません。

最後に。マイノリティを盾にして過度な権利を主張したり暴力を働く輩は嫌いです。


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