10. 2度目の形成外科、質問全開

 11:00 外科受付。再び形成外科にやってきた。
 11:20 診察室。扉を開け椅子に座るなり、
「前回は長引いてすみませんでした。」
 とまず伝える。
 あーはいはい、といった風で、E先生は特段気に留める様子もなく、診察が始まった。
 今日は早口でいこう。用意してきたメモを見ながら質問開始。


Q. ASM(乳頭をくり抜き乳輪は温存する)の場合、最適な再建方法は(私に合う方法は)?
A. どれでも大丈夫。再建する側としては、残っている部分が多い方がやりやすい。Areola-sparing mastectomyはここ2~3年(※2018年当時)で出てきた術式なので、術後データが少なく、予測出来ないことが多い。


●広背筋皮弁について
Q. 移植がうまくいかなかった(壊死など)の場合どうなる?
A. 部分壊死は自然に治る。全て壊死してしまうのは1,000人に一人くらい。

Q. 術後腕を使う(ぶら下がる、引っ張るなど)動きをした場合、弊害はある?
A. 特に問題なし。術後すぐに手の上げ下げなどして背中の糸が切れる方が心配。不随意運動(※胸に移動した広背筋がピクピクと動くことがある)が続く場合、希望があれば筋肉を切断することもあるが、胸が小さくなるのであまりやらない。

Q. 年月が経つとどのように変ってくるのか(健側との差は)?
A. 乳頭の位置は上がることもある(縫合後、皮膚の萎縮の仕方によって違う)。どうしても左右差は出てくる。術後の日常生活の動きによっても変わる。下垂の仕方は、エキスパンダーだけでなく、広背筋も、健側とは違う。

Q. 検査結果により乳輪も切除になった場合、エキスパンダーの後に広背筋皮弁で再建するのは可能?
A. 可能。近い将来、ボリュームの足りない部分に脂肪を足すのも可(※脂肪注入は近々保険適用になると期待され続けているものの、2020年時点まだ適用外。)。エキスパンダーを入れておいて、その後インプラントか広背筋か選ぶことも出来る。
  
Q. 今後ホルモン剤治療をした場合、健側も小さくなる?
A. そういう場合もある。
 
 広背筋皮弁は、抜糸後一週間あたりで受診。その後、背中に水が溜まったら都度受診。乳頭再建は約3ヵ月後。


●インプラントについて
Q. ASMでインプラントを入れた場合、乳輪の位置が高くなってしまわないか?(※乳輪乳頭温存(NSM)のような乳輪付近の乳腺が一部残る場合のインプラントでの再建は、乳輪乳頭が元の位置より上がってしまうことがある)
A. 高くなる(広背筋の再建でも高くなることあり)。学会でも議題に上がる。


●乳頭再建について
Q. 皮膚からの再建、健側からの移植、どちらが多い?どちらが私に合ってる?
A. 殆どが局所皮弁。乳頭が大きい場合は移植することもある。私の場合、残った乳輪から再建するので、色は自然だが、乳輪は小さくなる。
  
Q. 局所皮弁の場合、徐々になだらかになっていくというが、最終的にはどのようになる?軟骨を入れて高さを補強するなどは?
A. 数年でなだらかになる。気になる場合はまた再建することも出来る。肋軟骨を入れてもなだらかになることもあり、軟骨採取の為に余計な傷も増えるので、やらない。


 再建方法については、専らネットで情報を拾った。
 YouTubeには形成外科医による講演会の動画がいくつかあがっていて、実例画像も見ることが出来た(※現在は処理が施されていて見られないことが多い)。
 主催者、演者共に信頼できそうな講演となると、全て「Cancer Channel」という、がんについて複数団体が連携して情報発信をしているメディアに辿り着く。そもそも乳房再建の動画自体が少ないので、出ているものは自ずと再建で名高い病院の先生方のものになるのだった。
 
 医師が説明に使う言葉は、あくまで医学的で、乳首は「乳頭」。垂れ乳、なんてもちろん言わず「下垂」となる。腹部皮弁で再建すると下っ腹の余分なお肉が切り取られるので、「腹部の膨隆が抑制できる」。
 この誰も傷つけない知的な言い方、ステキ。

 でもいくら探しても、直近の、自分の知りたい情報が全て手に入る訳ではない。目にした動画は5年も前の2013年の講演だった(※2013年はインプラントでの乳房再建が保険適用になった年。講演が多かったのかもしれない。ちなみに自家組織再建は2006年から適用)。
 5年の間に再建法は臨床を重ね、進化している。限られた時間で理解しなきゃいけない。焦る。

 気になっているのは、傷より左右差。広背筋で再建する場合の乳房の縮小について。
 広背筋皮弁再建でのボリューム不足を事前に予測する評価法についての論文なんてのも見つけたので、コピーを持参したものの、E先生はタイトルを見た瞬間に「あー、これねー」とすげなく返却。

 そして更に気になるのは、乳輪乳頭の位置。
どうやらインプラントでも広背筋でも、再建すると、乳輪乳頭の位置が上がってしまうことが多いようだ。位置を揃えるのは難しそう。となると、せっかくの乳輪残しもかえってネックになるのでは?福笑いのようになるのは耐えられない。
 乳房の形より、乳輪の位置バランスが取れるのか。不安が残る。
 
 
 「いやぁ、良く調べていらっしゃる。」
 とE先生。なんだ?その言葉使い。

 「人生かかってますんで!(鼻息)」
 少し冗談めかして答えたが、真剣だった。
 
 「執刀はE先生ですか?」
 「多分。」

 「広背筋の再建数はどれくらいですか?」
 「30件くらい。」

 少な!いや、年齢的にはそうでもないのか?分からない。

 「インプラントは20件くらい。僕の患者さん、なんだか広背筋の人多いんだよね。」

 先日の電話では看護師から、診察の時にもう一度変更について言ってみてくださいね、と言われていたが、即座に

 「よろしくお願いします。」
 と頭をさげた。

 もうこの人で覚悟を決めた。
 ひいては部長のY先生を信頼してるってことなんだ。
 
 11:40 診察室を出る。20分ほどで診察終了。まぁ合格圏内?


 乳癌の発生部位は、乳頭を中心に4分割し、中央側上がA、その下がB、腋下側上がC、その下がD、中心の乳頭部周辺がE、と分けられていて、一番発生頻度が高いのは、腋下に近いC。次いでA。つまり、胸の膨らみが始まるあたりから胸の中央までに出来ることが多い。

画像1

「乳がんの発生部位」
武田薬品工業株式会社「今すぐ知りたい!乳がん」の画像から


 私の癌があるところは、右胸の下部。乳首から乳房下溝線までの間の真ん中あたり。分類でいくとBとなる。全体の6.8%。圧倒的少数派。

 腫瘍を摘出するには、周囲の組織も切除しなければならない。CやA領域なら、癌のある場所や広がり方によっては、手術痕が少し凹むくらいで済む場合もある。その場合、「温存」という選択肢もあるわけだけれど、私はこの言葉使いがどうも気に入らない。
 
 「温存」か「全摘」か。
 そりゃ、自分の皮膚を少しでも残せると分かったら、「温存」したいとも思うでしょう。
 でもね、私のように膨らみの下の方に癌がある場合は、切り取ったままだとかなり無残に変形することになる。
 「温存」なんて期待を持たせる言葉じゃなくて、「部分切除」と言うべきじゃない?誤解を生むよ。
 「温存」は組織を温存、あくまで乳腺外科側からみた言葉で、見た目まで「温存」される訳じゃない。

 部分切除した胸から再建するより、全摘からの方が圧倒的にキレイに出来る(温存には必須の放射線治療をした皮膚は「砂漠」とE先生は例えていた)。
 医者が最初に教えてくれることが前提だけど。
 もし胸をなるべく左右同じにしたいなら、術後どうなるのか訊きまくれ。
 後で後悔することになるよ。


(2018年7月3日)

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