タバコを吸う女は嫌だって

昨日初めて会っただけの君に、こんなにも気持ちをかき乱されるなんて思ってもみなかった。


田舎町で怠惰な毎日を送るついでにちょっとの刺激欲しさで見ず知らずの他人と簡単に体を重ね、その回数で意味のない優越感を抱いていたようなくだらないわたしにとって君はあまりに眩しすぎて、ほとんど神様みたいだった。
外見や話し方で勝手に判断して、君も他の有象無象とおんなじ、ただ体を重ねたいだけの男だと思っていた。
好きな人じゃないと触れたいと思えない、とハッキリと口にした君を、最初は疑っていた。それでも数時間にも及ぶ電話越しに伝わってきた君の人柄は、考え方も生き方もわたしとは正反対。ちゃんと将来のことを考えて進路を選び、学校の授業もちゃんと受けているんだって。

車を停め、こちらに向かって手を振る君のいくつも空いたピアス穴やパーマをゆるくあてたセンター分けの髪型はやっぱり軽い印象で、わたしは少し緊張していた。
わたしのことを軽い女だなんて笑う君とはわたしは付き合えないことはハッキリわかっていて、それなりに町灯りを見下ろせる展望台のベンチに並んで座り、触れられない君の手をずっと横目で見ていた。

君は街に帰ればわたしのことなんて忘れてしまって、毎日を笑って過ごせるよ。見えてしまった、たくさんのメッセージで溢れている待ち受け画面を思い出してわたしは震える手でライターを握りしめた。
タバコを吸う女は嫌いだなんて君が言うから辞めようと思った覚えたてのタバコは、君を思い出すためのものでもあって。君の吸っているものよりもだいぶ重いタール数の煙を、自傷行為のように何度も何度も肺に入れる。それでも君に見合うような人になりたくて、重たい荷物を引きずって行った図書館の、そのトイレで吐いた。一体なにしてるんだろうなんて自分に呆れながら、それでもまだ君のことばかり思い返してしまっている。

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