Pain Pain Pain/teto を聴きながら

初対面の、好きでもない男に抱かれた帰り道、田舎町に帰る東武東上線の中。


ラブのないラブホテルには泊まってすらいない。2時間3000円足らずの休憩料金を払って、愛のない愛撫をされてはしゃいだように笑っていた数時間前の自分の軽薄さを思うと誰かを殺してしまいたくなる。
彼に会った時から既に暑さでボロボロになっていた化粧は帰り際にホテルの鏡で確認した時にはぐちゃぐちゃになって目も当てられないほどだった。出掛けに丁寧に外ハネにした髪はベッドに押し付けられ続けて原型を留めていない。電車の窓の反射で今の自分の姿を確認する気は全く起きなかった。


なんでホテルなんて行ったのか。
顔が好きだった。服装が好きだった。髪型が好きだった。音楽と映画の趣味が合った。話していて楽しかった。
それだけの理由でのこのこホテルについて行ったが、わたしは別にセックスはさほど好きではない。
素性も知らない男を気持ちよくさせてあげている自分、気持ちいいフリをしてわざとらしく矯正を上げ、演技をしている自分を客観視して気持ちよくなっているだけ。


行為が済んで、ベッドに寝転んだままクリープハイプを裏声で歌う相手の姿にどこか既視感を覚える。それがわたしの世界一くだらない初体験の相手がよく事後にやっていた事と同じなんだと気がつくまでさほど時間はかからなかったし、その瞬間一気に気分が悪くなった。
そういえば、わたしとさほど変わらない背丈も、一重瞼も、音楽の趣味が合うのも同じだ。あの人より話していて楽しかったし、あの人ほど下心を露骨に出してくることはなかったけど、あの人があと数年分歳を取って音楽を仕事にしたらこんな感じなのかなと思った。


わたしの大学は地方の山奥に位置していて、一学年の人数が少ないこともあってどこか牧歌的な雰囲気が漂っており、いわゆる大学生らしいキャンパスライフを送っている者は多くない。はず。
わたしは大学にほとんど友達がいないから詳しい周囲の学生の様子などはよくわからないが、自分の歳でこんなカジュアルに複数人の異性と身体関係を結んでいる学生はうちの大学にはそういない気がする。


それで結局のところ自分は、世間的にあまり褒められたものではない行為を繰り返し、心の内で粋がっていることで、他の学生に馴染めない惨めさや自分の思い描いていた大学生活が送れないことへのフラストレーションを解消しているだけなんだろう。

自分が東京の大学生でないことに心底感謝する。こんな空虚な気持ちになるのは数か月に一回で十分。

人気のまばらな最終電車、クソ高いイヤホンを通して流れてくる音楽はただのBGM。
Aメロの歌詞だけ自分の境遇に当てはめて、その曲が本当に指していることには興味もないままに「これは間違いなくわたしの歌だ」とサブスクのリンクをSNSに貼り付けるうすら寒さ。

電子マネーのカードを改札に叩きつけると、むき出しの無人駅に漂う生ぬるい外気に吐き気がした。

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