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第36回 第3逸話『プロテウス』 その6

 そして意味不明な、スティーブンの自問自答はさらに続く。

”スティーブン君、君はいかにしても聖人にはなれないよ。昔は君も信心深かったのに。
赤鼻
(酔っ払い)になりませんようにってマリア様に祈ったりもしたね。
(でも、ある時)女の人が水溜りを跨ぐのを見て、もうちょっとスカートを捲り上げるようにって、悪魔に祈ったろ。
(またある時は)雨の中で「女の裸!」って叫んだろ(つまり、信仰に反して、エロいことを考えたってこと)

 …とにかくスティーブンは苦い過去を思い出して苦しんでるみたい。




 「痛かったなあ俺…」


 ”毎晩七冊の本を読んで。俺も若かったねえ。本を書く(出版する。スティーブンの作家になる夢のこと)って。みんなに読んでもらったりなんかして”

”エピファニーのことを覚えてるかい? お前(自身に言っている)が死んだら、世界中の図書館に写しを送る手筈らしいね。
何千年経っても世界中の誰かに読んでもらうってねえ”

 作者ジョイスは生前、自分が死んだら彼直筆の「エピファニー集(創作ノート?)」の写しを、世界の大図書館に寄贈しろと言っていたらしい

 つまりこれはジョイス自身のこと。事実、少なくともこの本は、出版から102年経っても世界中で読まれている。多分この先も読み継がれるだろう。

 

 次、


”さよう、まさしく鯨のようにも”

 これは『ハムレット』第3幕3場で語られる、おべっかポローニアスが発するセリフらしい。手元にある文庫をペラペラめくると、確かにありました。124ページ。

ハムレ王子が、
「あそこに見える雲、ラクダに似てない?」
「確かに」
「いやイタチに見えない?」
「そういえば」
「いややっぱラクダだよ」
「ですよねぇ」
「いやいや鯨だろ」
で、”さよう、まさしく鯨のようにも”

で、ハムレットは
「どいつもこいつも俺をいいようにあしらってる!」って怒る場面(あんたのせいだろ)。

  スティーブンの真意は、自分の大言壮語を自嘲して?



”彼は立ち止まった。セアラおばさん家は、とっくに通り過ぎたぜ”

 ぶつぶつ考え事して歩いていたら、目的地を過ぎちゃってたって、ウケる。 

 …続く。






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