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HOPE

Hは最後の1万円をサンドに入れた。ガラガラとコインがトレイに落ちてくる。
「このゾーンで当たれば爆発する。大丈夫だ。必ず来る。昨日出てないこの台が出ないはずがない。信じろ!己を信じろ!きた!スイカだ。ここから32Gの間に前兆が来ればこっちのもんだ。頼む。もう金がない。」
無情にも32Gは過ぎ、また千円、千円とサンドに吸い込まれていく。
「ちっ。あと千円か。」
Hはふと鞄の中に封筒が入っているのを見つけた。
「これ子供の保育費だからね。ギャンブルなんかに使わないでよ!」
「わかってるって!使うわけないじゃん」
そう言って今朝妻から預かった子供の保育費だった。2万円ほど入っていた。

Hの頭の中で誰かがつぶやいた。
「あとで勝ったら返せばいいって」
そして、Hはその声にうなずいた。
「そうだな。勝ったら返せばいいや」
Hは封筒から2万円を取り出し、自分の財布に入れた。
その後1回の当たりもなく2万円は吸い込まれていった。
Hは台を叩きたくなったが、ふり挙げたこぶしをゆっくりと下ろした。

ふらふらと駐車場に戻り軽自動車に乗り込むとハンドルを思いっきり叩いた。
「くそくそくそ!なんでまたやっちまうんだ!俺はバカなのか?死ねばいい死ねばいい。死にたい死にたい死にたい死にたい。」Hは嗚咽を漏らして泣いた。自殺が頭に浮かんだがどうしても死にきれなかった。Hをこの世に引き留めていたことがあった。

子供のことだった。
Hには今年生まれたばかりの子供がいた。
Hにとって子供は絶望の中の光であり、生きる希望だった。
幼い頃、両親が離婚してからHは父と言うものを知らずに育った。
だから自分の子供には父親らしいことをしてやりたい。そう思っていた。
祖母に聞いた話によるとHの父は借金を作ってどこかに逃げたそうだ。ギャンブルが原因だったらしい。
「血は争えねえな。また死んだように生きるのか。」Hはそうつぶやいた。

「Hさん、では自助グループに繋がった経緯を教えてください。」
「ギャンブル依存症のHです。今年30歳になりました。今年子供が生まれました。妻に隠れてパチンコ、スロットで300万ほど借金があります。もう妻に隠れて支払いもできなくなりどうしようもなくなりました。そんな時インターネットで ギャンブル やめたい と検索して辿り着いたブログにこの自助グループのことが書いてあり、初めてここに参加させてもらいました。どうか助けてくれませんか。」
Hは話しながら嗚咽をもらしながら泣いていた。その場の参加者から拍手が聞こえた。


会場のみんなの話が一通り終わってから、司会のWさんがHさんに話しかけた。
「Hさん、あまり泣かないでください。ここにいるみんなは同じ悩みを抱えています。ここでは何でも正直に話すことができます。何も手助けできませんが一緒に考えてみましょうよ。」
「ありがとうございます!どうしていいかわからなくて。」


「Hさん、少し面白い話をしましょうか。あなたがここに来ることを予言していた人がいました。厳密に言えばその人はもういません。1か月前に癌で亡くなりました。その人はRさんと言います。このグループを創った人です。Rさんは最後に私に言いました。もうすぐ30歳くらいの若い男の子がここに来るだろう。結婚して子供がいるはずだ。そして泣いて助けてくれと言うだろう。その頃には私はいないだろうが、彼が来たらこのブログを紹介してあげてくれ。私のすべてが書いてある。きっと役に立つだろう。そして、彼は私の子供だ。」


「Hさん、Rさんはあなたにこれをと。」
WさんはHに1通の封筒を手渡した。


「そこにはRさんの生前のブログのURLが書いてあるそうです。Rさんは話してくれました。そのブログはあなたのために書いてきたと。私の息子がもし私に似てギャンブル依存症になった時どうすればいいか、ギャンブル依存症からの回復の方法のすべてをこのブログに書いた。どうか息子をよろしく頼むと。」


Hはその場に泣き崩れた。


RさんはHが1歳の時に離婚しそれからHに会うこともなかったと言う。離婚の原因はRさんのギャンブル依存症だった。その後、Rさんはこの自助グループを創った、Hのために。Rさんは死ぬ間際までHにすまないことをしたと悔やんでいた。そして、せめてHが道に困った時にとブログとこの自助グループを創った。いつかここを訪れるHのために。


Hは帰りの車の中でもらった封筒を開けた。
そこにはブログのURLと短いメモが書いてあった。


息子よ
お前はもうどうしようもなくなりこれをもらったのだろう。私は知っているお前がこの封筒を手にすることを。
お前はもしかしたらこの封筒を手にしなくても生きていけるのかもしれない。それはそれで嬉しいのだが、お前は私の息子だ。おそらくこの封筒を手にすることになるだろう。


息子よ、泣くな。
お前は神と共にある、そして私も常にそばにいる。
ギャンブル依存症からの回復の仕方のすべてをこのブログに記した。もう迷うことはない。必ず回復するから信じてみなさい。
そしてもし君に子供がいるなら、私が君にできなかったことを君の子供にしてあげなさい。


そして 幸せになりなさい すまなかった R

⇒ギャンブル依存症Rのブログ  http://nogamble-nolife.com/


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