オンラインでも、店舗は「メディア」になっていく

私が「店舗はメディアになる」と考え始めたのは百貨店勤務時代のこと。
気づけばもう10年近く、店舗とメディアの関係について考え続けてきたことになる。

この2、3年は、「店舗」といえば実店舗を指すことが多かった。
アメリカやヨーロッパを中心に体験型店舗が増え、デジタルネイティブブランドたちもこぞって実店舗を持ち、実店舗のメディア化こそがこれから小売がやるべきことだと考えられてきた。

しかし世界中のほとんどの人たちが自由に外出できなくなった今、実店舗はメディアとしての価値を失ってしまった。
実店舗のみならず、エンターテイメントの世界も含め、「みんなで」「一緒に」楽しむコンテンツすべてが苦境に立たされている。

ではこのまま店舗のメディア化が過去のものになってしまうのかというと、私はむしろこれから加速していくはずだと考えている。

これまで実店舗を回すことに忙しくてなかなかオンラインでの発信に着手できていなかったお店が、続々と発信に力をいれるようになってきたからだ。

しかも今の状況が長く続けば、ものづくりや流通にも支障がでてくる可能性が高い。
その場合の打ち手として、オンラインコンテンツの販売やオンラインコミュニティを事業の軸として考え始めているお店も増えるはずだ。

これはまさにメディアとまったく同じ動きであり、お店の発信がメディアと同じ役割を果たすようになるだろう。

しかもこれまでファッションを扱っていたブランドも、しばらくは外出が難しい世の中で生き延びるためには家の中のものを扱わざるをえない。

そのブランドの世界観にあうインテリアやおうち時間の過ごし方を発信し、ファッションだけ、アクセサリーだけ、メイクだけといった限られた訴求ではなくブランドの世界観全体を伝えていかなければならない。

何より、この状況になってみて改めて「顧客と直接つながる」ことの重要性を痛いほど感じたお店も多いはずだ。

D2Cと呼ばれるビジネスモデルの最大の強みは、SNSやECで直接顧客とつながっている点にある。
こうした厳しい状況の中で、「買い支えよう」と応援してくれるファンがどれだけいるか。

それはいかにブランドを「メディア」として育ててきたかにかかっている。

先週の海外記事まとめでも書いた通り、単にモノを直接販売するだけではなくコミュニケーションを直接とることで、中国における影響を最小限に抑えられたNIKEの例は示唆に富んでいる。

この騒動を機に本当の意味でのD2Cを目指すところが増えそうだなというのが私の予想です。
③の無形物課金は、そのブランドへのロイヤリティがなければ成り立ちません。記事の中ではNikeの事例があげられていましたが、Nikeも早くから顧客と直接コミュニケーションをとるD2C的な考え方を重視し、卸売に頼らなかったことで中国でも早々にアプリでの有料課金コンテンツをはじめるなどして被害を最小限に抑えられたという流れがあります。

これから、どんなお店もブランドも「家」という小さな枠の中で発揮できる価値を提供していくしかなくなっていくだろう。

セレクトであれオリジナル商品であれ、インテリアやうつわ、ホームウェアを扱うことを余儀なくされるだろうし、発信するコンテンツも「おうち時間」に限定される。

そんな中で、いかに自分たちの存在意義を発揮し、人が過ごす時間に付加価値を与えていくか。

「店舗のメディア化」の本質は、情報やモノの移動に自分たちが介在する意味を見出すことにあるのではないだろうか。

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最所あさみ
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